水のあれこれ 11 <水槽の中で生きる>

昨年末から葛西臨海水族園のマグロが次々と亡くなっていることが報道されていました。
そろそろまた、あのマグロが悠々と泳いでいる姿を観に行こうと思っていた矢先でした。


その報道からブログの記事にしてみようと思ったこともありましたが、どうも書けませんでした。


書けなかった理由のひとつは、あの巨大な水槽で泳いでいたマグロやカツオなどはどんな気持ちなのだろう、飼育していた水族園の方々はどんな気持ちなのだろう、そしてそのニュースで心を痛めている自分の気持ちは何に対していなのだろうと、まず「気持ちの問題」を整理するのに時間が必要でした。


もうひとつは、大量死の原因がはっきりわかっていない時点でこの件について何かを書くのはやめようと、ブレーキがかかりました。


たとえば医療機関で何か予想もしない事態が起きた時、原因がはっきり特定できるようなことは少ないし、何年もあるいは20年30年と時間をかけて原因究明をして行く必要がある場合もでてくると思います。
今、水族園や関係者の方々が直面されているのは、「わからないことに耐える」ことではないかと思います。
そして望んでいるのは、社会もまたそのことを理解してくれることかもしれません。



シュモクザメを入れるニュースまでの経過>


3月下旬に久しぶりに葛西水族園のニュースをテレビで伝えていました。
クロマグロが一匹生き残っていることと、段階的にシュモクザメなどの魚を入れながら、マグロの展示を復活させるというものでした。


東京ズーネット「クロマグロの展示について 3/27」でその経過が書かれていました。

 葛西臨海水族園の展示水槽「大洋の航海者:マグロ」では、2014年12月から1月にかけて展示中のクロマグロ、スマ、ハガツオの死亡が続いた結果、2015年3月27日現在、展示しているものはクロマグロ1尾となっています。
 今回の大量死の原因追及に向けて、これまで病気や飼育環境など個別の要因について調査してきましたが、大量死をもたらす2種(マダイイリドウイルス病、ウイルス勢神壊死症)のウイルスは検出されていないなど、これら個々の死の要因を原因として特定するには至っておりません。


巨体のマグロと他の魚で混み合っている水槽に見えましたから、私は「きっとウイルス感染にちがいない」と思っていました。
これが素人の思い込みなのですね。


リンクしたサイトの「大量死の原因」には以下のようなことが書かれています。

(1)複合的要因
今年度は5年ぶりのクロマグロの産卵があり、活動量が増加する期間がこれまでになく長期となる中で、音や光など、マグロ類の行動を不安定にする個別の要因が複合的・組織的に発生し、原因となったことも考えられますが、学術的な知見がなく断定はできない状況です。


そして専門家の意見として、「ウイルスの正体はわからないが、判明してもそれが大量死の原因としては特定できない可能性」があること、「マグロ類に近い種類の魚を少しずつ入れて様子を見ていくのも一案」ということから、今回のシュモクザメの案になったようです。




<白か黒かの気持ちになりやすい話題>



「世の中を良くしなければ」と正義感に満ち、「自然なお産」に傾いていた20代から30代の私だったら、きっと今回のニュースには「自然(海)と不自然(水槽)」というとらえ方をしたのではないかと思います。


そして「そんな不自然な水槽でマグロを飼うことは残酷なことであり、水族館はなくすべき」と。


今は「大海原で他の魚に捕食されたり、自由であっても一寸先はわからない自然と、管理された水槽の中のどちらが幸せかといった魚の気持ちはわからない」と、感情の部分から問題をとらえることに距離をおけるようになりました。


だって水槽や生け簀の前で魚をみて、「美味しそう」という感情も自然にでてきますからね。


この「残酷さ」に反応すれば、魚を食べることは残酷であるとフードファデイズムというイデオロギーを生み出すことでしょう。


こうした水族館の話題ひとつをとっても、私が感情に走らなくて済んだのはニセ科学の議論のおかげだと思っています。


そして「失敗に学び、リスクマネージメントとして生かす」ためには「わからないこと」への耐性が大事というあたりは、医療現場の実践で身についたのだと思います。


ということで、またあの大きな水槽で悠々と泳ぐマグロを観る日を楽しみにしています。





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