昨年11月に入って報道される感染者数がゆるやかに増加するとともに、通院中の妊婦さんやご家族の発熱や発症の電話が増えてきました。
ただ「感染者数」の把握方法が変わったので、おそらくこの何倍かはいるだろうとおおよその波を肌で感じるしかないですね。
1年ほど前に家庭内が安全ではなくなった時期ごろから、お産が近い妊婦さんが発症することがぼちぼちとでて、さらにその搬送先がなかなか見つからなかったり、無事にお産が終わったと思ったら家族中が発症して、産後の家族の手伝いがなくなるどころかお母さんと赤ちゃんが帰る場所もなくなることもでてきました。
幸にして身近なところではまだ新生児の感染の経験はないのですが、他院では出始めているらしいことが伝わってきました、
第7波ごろは小児や乳幼児への感染が新たな課題でしたが、まだ新生児の感染という話はほとんど聞こえてきませんでした。
母体への予防接種で守られているとちょっと安心していましたが、いよいよ新生児にも感染がひたひたと近づいてきたのでしょうか。
スタッフもこれまでは濃厚感染者だったのが、自身が感染し、療養期間が終わっても体調が悪いまま仕事復帰していることが増えました。
今まで産科で働いてきて、妊婦さんだけでなく新生児もご家族もそしてスタッフも一斉に発症するような状況は経験がありません。
*未曾有の感染症の収束の目処というのはどんな時期だろう*
ただ、こうした情報も症例報告などを通しているわけでなく、全国的にはどうなのかあるいは対応もどうしたら良いのか全くの手探りです。
ものすごい数の症例報告や研究が、平時のスピードからは考えられないような速さで世界中で積み重ねられているのだと思うのですが、通常であればそうした報告から時間をかけて対応が標準化される流れが、今は伝聞でしか全体像をつかめずにそれで状況を判断しなければならないことが未曾有の事態の怖さですね。
2020年はまだワクチンなんて夢のまた夢だったのが妊婦さんにもワクチン接種が進み、母体からの抗体で胎児や新生児も守られているらしいことがわかったのも束の間、新生児まで感染するようになるとは。
妊娠中から産後に感染した方々や、新生児や乳幼児のその後の状況はどうなのだろう。
あまりにも状況の変化が早く、何をどうやって感染を最小限にできるのだろう、今の対応方法は次の波で有効なのだろうか全くもって予想もつきません。
医療の場合は症例報告が基礎にあり、さらに臨床の観察や症例報告だけではエビデンスレベルが低いという共通認識ができた時代を経ているので「自分が信じたい最強の対策」ではだめなのですが、目の前で起きていることに今すぐになんとかしなければならない葛藤もあります。
感染を広げないように変化する状況に応じていかなければならない上に、急な欠勤による人手不足、さらに新型コロナ前からの医薬品が足りなくなる状況がさらにひどくその対応にも手が取られています。
薬が足りなかったから対応できないとか搬送先が見つからなくて手遅れになったとか、周産期医療崩壊の引き金にもなりうるあの2006年以来のあの怖さがあります。
そんな時に政府は医療機関を守ってくれるのでしょうか?
新型コロナは終わったと思いたい世の中の雰囲気とは関係なく、新たな波が来るたびに状況が変化するのでどのように対応したら良いかまだ手探りの状態ですね。
診断方法から治療・予防方法まである程度確立されて「だいたいこの対応で大丈夫そう」という手応えがまだ医療現場にないうちに、もう大丈夫かのように伝えてしまうとのちのち大きな齟齬を生むのではないかと心配しています。
*気持ちではウイルスに対応できない*
そういえばあの夢のようなmRNAワクチンが実現して世界でも確保できる分が少ない中で、静かに自分の番を待っていた社会だったのに、あの時も「自粛疲れ」といった表現で混乱させられました。
昨日利根大堰の左岸と右岸を歩いた記事を書き始めたのですが、昨年12月初旬は「ああまた第8波が来そうだからしばらく遠出は無理そう」と思って出かけたのでした。
ちょうど同じ時期、突然中国で「ゼロコロナ政策終了」のニュースがありました。
次々と感染拡大の様子が漏れ聞こえるに従って、また先行きが見えなくなる絶望感を感じました。
ほんと世界的な感染症というのは温度差がでてくるだけでなく、どの国でも政治家の一声で築いてきたものが壊れていくのを目の当たりにするものですね。
そのわずか1ヶ月後には、国内の状況にも関わらず「世界では日常を取り戻している」という理由で屋内でもマスクは不要とするという話が出てきたのでした。
「マスクは個人の判断で」となったものの「イベントでマスクを外して大きな声で声援できるように」とか、政府の内側は誰の方向を向いているのか本当によくわかるトンチンカンな発表が続きますね。
そして「G7までには『ノーマスク』にしたい」というニュースに、ああ、やっぱり本音はそこだったのだろうなと。
今までの外遊と同じく、それぞれの国の感染状況を理解してG7に参加する人だけ個人の判断ではずせばいいだけですよね。
気持ちではウイルスには対応できないし、状況を見誤っているようにしか見えないですね。
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