落ち着いた街 49 落ち着かない街になっていくのは

深谷へ向かうのに渋谷駅から湘南新宿ラインに乗るつもりでしたが、どこかの駅で人が転落したとのことで大幅に遅れていました。

 

列車を待つ間、ぼーっと渋谷駅にたたずんでいると、あの山手線の外回りと内回りのホームを一緒にするための線路付け替えで歴史的な運休になったのも遠い昔のように思えるほど、当たり前の風景になりました。

湘南新宿ライン埼京線のホームだって、以前は長いコンコースを歩いて山手線に乗り換えなければならなかったのがわずか3年半前というのも嘘のように感じます。

エレベーターやエスカレーターも劇的に増えて路線が複雑に交わる重層的な駅の高低差とその駅間の移動への動線の配慮がされて、工事中の駅でも歩きやすくなりました。

 

ただ、少し前までは目の前に渋谷川の河岸段丘がはっきりわかるような空間があったし、10年前まではターミナル駅だった東急東横線のホームは山手線の上にあって、出発するとぐーんと弧を描きながら清掃工場の横を通過して見晴らしの良い風景でしたが、最近の渋谷駅はすっかりビルの谷間になってしまいました。

 

最近は青白いガラス張りのビルが流行りなのでしょうか。

街が統一されていく感じはあるのですが逆にそれしかなくて、なんだかちょっと冷たくそして壊れてしまいそうな不安定さを感じるのは好みの問題なのかもしれませんが。

 

そして駅周辺にあったデパートやショッピング街も東急東横店閉店のように、通勤途中などに立ち寄れる日用品を手頃に買える便利なお店がなくなりだいぶ生活が変わりました。

 

 

そんなこんなで、渋谷駅周辺の1960年代頃からのセピア色の風景は年がら年中工事中ではあるのですが、この10年ほどが一気に風景が変わった時代でした。

 

事故もなくすごい工事が行われていることへの敬意もあるし便利になっていくし時代の変化にもついてく必要があるし、あまり回顧ばかりではいけないかなと思っていたのですが、何に引っ掛かっているのだろうと少しずつ葛藤がひもとけてきました。

 

駅周辺のビルなどはもちろん誰かの私有地なので開発は自由なのかもしれないのですが、そこを歩き利用する人もまたその地域を作ってきたのに、その風景や機能が大きく変えられていくことに意見をすることもできない無力さとでもいうのでしょうか。

 

誰の力で、誰が街の風景や生活を大きく変えていくのだろう。

それはなぜ許されるのだろう。

 

これからもずっとこんな感じであっという間に風景が壊れ、新しい何かで表面が埋め尽くされていくのでしょうか。

河岸段丘の残る渋谷の地形がわからなくなるほどに。

後世に遺跡は出ても、そこに生活した人の思いは出てきませんからね。

 

そして人だけが増えてまた見せかけの雑踏が作られていく。

 

なんだか落ち着かない街になったなあと思いながら、20分遅れの列車に乗り込みました。

 

 

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