世界はひろいな 2 <読めない名前>

「読めない名前」の問題は、キラキラネームが出現するよりもはるか以前から日々感じていたはず、ということを思い出したのでした。


読めない、覚えられない名前がこの世にはたくさんあります。
日本だけでなく、世界中で。


<「名前の読み方」が違う>


海外医療協力に参加するのに、必須だったのが英語の簡単な会話能力でした。
せめて新聞やテレビなどのニュースをだいたいはわかるようにしたいと思い、英字新聞を購入し、当時FEN(Far East Network,極東米軍放送)と呼ばれていた在日米軍向けのラジオ放送を聴いて英語を勉強しました。


そこでつまづいたのが、中国や韓国などの要職者の名前や地名がほとんどわからないということでした。


たとえは歴史で学んだ「毛沢東」が、「モウタクトウ」ではないという当たり前のことです。
あるいは中国の地名も、「ペキン」ではなく「ベイジン」と覚えなおさなければいけません。


当時の新聞は、人名や地名に振り仮名は全くつけられていませんでした。
いつ頃からでしょうか、新聞でも振り仮名がついているのを目にするようになりましたが。


中国あるいは韓国・北朝鮮についてのニュースを読んだり聞く時には正しい人名や地名を知らずに、日本語読みで覚えて理解しています。
あるいはさらに難しい漢字で書かれたものだと、目で漢字だけを覚えてその人を知っていると思っています。
その読み方さえもわからないのに。


では、質問。
「チアン・ツォーミン」とは誰でしょう?
これくらい著名であればわかると思いますが、このwikipediaの説明に出てくる中国政治家名を正確に読める人はどれくらいいるのでしょうか。


犬養道子氏も、早くからこの日本語読みの問題を著書で指摘されていました。


少なくとも人名はその音のまま覚えるようにしないと、名前の意味もなくなってしまうのではないかと思います。


<読み方がいくつもある名前>


医療の仕事も日々たくさんの名前と出会います。


そこで困るのが、日本語名に使われる漢字は読み方がいくつかあることです。
たとえば「渡部 裕美」さんという方が来院されたとします。
「ワタベ」さんなのか、「ワタナベ」さんなのでしょうか。
「ユミ」さんなのか、「ヒロミ」さんでしょうか。


少なくとも「ワタナベ ユミ」「ワタナベ ヒロミ」「ワタベ ユミ」「ワタベ ヒロミ」さんの、四つの読み方の可能性があります。
もし「裕美」をさらに当て字で読む場合があったら、もうお手上げです。


同姓同名の方の問題もあります。
また、男女どちらでも通じる名前もあります。


「ワタナベ ユミ」さん(女)と「ワタベ ヒロミ」さん(男)で取り違う可能性もあります。


医療の中での人の取り違いは時に致命的な医療事故にもつながりますから、最近では入院患者さんであればバーコード式のリストバンドの着用をしたり、外来なら患者さん自身に名前を言っていただいて確認するなど、対応策が増えました。


<読めない名前があるということ>


日本や中国・韓国・北朝鮮のように漢字表記の国々の名前は、「日本語読み」「中国語読み」といった本物の読み方とは違う読み方ができてしまうことと、同じ漢字でいくつかの読み方ができてしまいます。


「漢字」→「日本語読み」で覚えたものを、本当の発音で覚えなおさなければいけないというプロセスができてしまったこと。


あるいは「漢字」(目で覚える)→「読み方はわからないけれどそのまま」というプロセスもあること。


そう!これが私が人の名前を覚えられないことの主な原因ではないかと思います。
私の能力の問題だけではなく、最初からその名前の音で覚えられる方法だけであれば私もこれほど人の名前に苦労することはなかったのかもしれません。


<おまけ>


wikipedia振り仮名には、新聞などの振り仮名の経緯が書かれています。

漢字の識字率が低い層でも読みやすくするための補助として発生した。明治時代に入って以降、第二次世界大戦まで、活版が盛んになっても全ての漢字に振り仮名が振ってあった。

戦後になって作家の山本有三により「振り仮名がないと字が読めないようなのは恥ずかしいから振り仮名を全廃しよう。そして振り仮名が無くとも読める字だけで書こう」との提言がなされた。

人名はできれば、発音を必ず振り仮名にして付けてくれる世の中になると良いと私は思います。




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