母乳のあれこれ 2 <「妊娠中のお手入れ」はどのように変化してきたか>

妊娠中に乳頭マッサージなど「お手入れ」をしましょうと説明された方は多いのではないかと思います。


あるいは、積極的に乳頭マッサージを取り入れていない施設もあると思いますが、前回のぽむぽむさんのように妊娠中のイベントや雑誌なのでそういう情報を知って実施された方もいらっしゃることでしょう。


出版されて間もない「母乳哺育と乳房トラブル 予防対処法  乳房ケアのエビデンス」(立岡弓子氏著、日総研、2013年)の中にも、「妊娠中の乳頭ケアの実際」で以下のように書かれています。

ケア方法

・爪を切り、乳頭の先にクリームをつけて行う
・親指、人差し指、中指の3本の指で乳輪部から乳頭をつまみ、乳頭の先をつぶすように圧迫する(約10秒程度)
痛くなるまで圧迫しないことを心がける。入浴中の実施はリラックスでき、乳頭や乳輪部の柔軟性への効果が起こりやすい。(p.112)


「乳房ケアのエビデンス」と題名がつけられているけれども、本当に乳頭ケアが有効なのでしょうか?
また、助産師の中で「妊娠中に乳頭ケア」はどのように位置づけられているでしょうか?



<1980年代の妊娠中の乳頭ケア>


1980年代終わり頃の助産婦学生が使った教科書「母子保健ノート2 助産学」(医学書院、1987年)では、妊娠中の「乳房の手当て」として以下のように書かれています。

2.開始の時期
妊娠中期より行う。これは中期の初めに初乳が分泌されるので特に清潔に心がける必要性と、この時期は胎盤が完成され乳房刺激による子宮収縮にもある程度耐えられるためである。

3.方法および留意点
イ. 一日1回、入浴後等に清潔な手指で乳房および乳頭にオリーブ油かコールドクリームを塗り、約5分間静かにマッサージする。終了後はオリーブ油などはきれいに拭き取る。
ロ. 扁平および陥没乳頭の場合は、乳頭を引き出して静かにもむようにする。ブレストシールドを使用してみるのもよい。どうしても乳頭がでてこないときは医師に相談するのがよい。

「イロハ」が使われていた時代だったことに何だか「昔」を感じさせますし、当時の「オリーブ油」というのは何も言わなくても「薬用オリーブ油」のことだったと懐かしさを感じます。
当時、まだ食用のオリーブ油なんて、海外の食材を扱う店以外には販売されていませんでしたから。


また、「どうしても乳頭がでてこない時は医師に相談するのがよい」と書いてあるけれど、相談された医師はきっと困ることでしょう。当時も今も、「おっぱいのことはわからない」とおっしゃる先生方がほとんどですから。


そしておっぱいを観察し、処置をする機会が最もある助産師もまた、科学的な検証方法を考える努力をしてこなかったといえるでしょう。


<乳頭マッサージの目的の変化>


さて、1980年代の乳頭マッサージの目的は以下のように書かれています。

イ. 乳房を清潔に保つ
ロ. 乳房および乳頭の形を児がのみやすいように整える
ハ. 児の吸啜(きゅうてつ)による乳頭皮膚への亀裂を防ぐための皮膚鍛錬

そう、「乳カスを取り除いて清潔にする」ことと「乳首の皮膚を鍛える」ことが目的と教わりましたし、卒後はしばらく、妊婦さんにもそう説明していました。


2013年の現在は、どうでしょうか?
冒頭の本では以下のように書かれています。

妊娠期から乳頭ケアを行うことで、乳頭・乳輪部に柔軟性が生じ、伸展性が出ることが大切である。柔軟性と伸展性によって授乳期の乳頭トラブルがおこりにくく、また乳汁分泌の状態に関係してくることを妊婦に伝えていくことで、セルフケアが行えるように関わることが必要である。

1980年代の「皮膚を鍛える」から、「皮膚に柔軟性を持たせる」ことに大きく変化しています。


同じような乳頭ケアでも、「鍛える」と「柔軟性」という正反対ともいえる方向に目的が変わった背景は何でしょうか?



「乳房ケアのエビデンス」には明治時代から現在に至るまでの乳房ケアに関する医学論文・看護論文が100ほど紹介されています。その内容をざっと目を通しても、この考え方の大きな変化の根拠は何か、よくわかりませんでした。




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