「早期母子接触」ってなんですか? 1  <母子の当然の権利?>  2015年7月20日追記あり

今日から「医療介入シリーズ」に戻る予定でしたが、うさぎ林檎さんからの指令に応えて、10月17日に出された「『早期母子接触』実施の留意点」について書こうと思います。
えぇ、「黒い内容で行け」という指令だと認識しました。


<カンガルーケアと早期母子接触


2012年10月17日に、日本周産期・新生児医学会、日本産婦人科学会、日本産婦人科医会、日本小児科学会、日本未熟児新生児学会、日本小児外科学会、日本看護協会日本助産師会から上記の文書が出されたようです。
http://www.jspnm.com/sbsv12_1.pdf
*2015年7月20日の時点では上記文章はアクセスできなくなっていました。


2012年1月18日から11回にわたって、「カンガルーケアについて考える」を書きました。
http://d,hatena.ne.jp/fish-b/20120118
その1回目の記事に書いたように、日本産婦人科医会から出生直後の新生児は状態が不安定なのでくれぐれも安全性に留意するようにという文書が来ました。
(現在は削除されたのか見ることができないようですが)


その後、正期産の新生児のカンガルーケアや完全母子同室・完全母乳を実施している施設で赤ちゃんをなくされたり障害を残されたご家族の会が作られたり、カンガルーケアについての報道が多くありました。


それまでNICU(新生児集中治療室)で行われていたカンガルーケアと混同されてしまう懸念がありました。


それで今回の文書は、「正期産児に対して行うsikn-skin-contactは、カンガルーケアではなく『早期母子接触』と呼び名を分ける」ことと、実施したい施設は「妊婦への十分な説明と同意を得ること」「モニターを装着し、実施中の安全性に十分留意すること」の3点を明確にすることが目的だろうと思っていました。


・・・内容を読むまでは。


<「母子の当然の権利」とはどういうことですか?>


ところが、今までのカンガルーケアを推進する資料の中でも記憶にはないような一文が書かれています。

2)背景
 出生後早期から母子が直接肌を触れあい互いに五感を通して交流を行うことは、人間性発露の面から見ても、親子が育みあうという母子の当然の権利ともいえる。


人間性発露って、なんですか?
生まれた直後に直接肌と肌を触れ合うことが、親子が育みあうための当然の権利というのはどういうことでしょうか?


権利という言葉を使うほどその行為が人間にとって必然性を持っているのであれば、1960年代から約30年間、たとえ当時の医学的知見に基いた必要性があったとしても母子分離を実施してきたことを「誤りだった」と医療側が認める必要があるのではないでしょうか。


また、2ページ目の「『早期母子接触』実施の留意点」では、以下のように書かれています。

4.「早期母子接触」を実施する施設では、各施設の実情に応じた「適応基準」「中止基準」「実施方法」を作成する。

5.妊娠中(たとえばバースプラン作成時)に、新生児期に起き得る危険状態が理解できるように努め、「早期母子接触」の十分な説明を妊婦へ行い、夫や家族にも理解を促す。その際に有益性や効果だけではなく児の危険性についても十分に説明する。

6.分娩後に「早期母子接触」希望の有無を再度確認した上で、希望者のみ実施し、そのことをカルテに記載する。


「権利」とまで表現する内容であれば、全ての施設が実施することも当然という理解が成り立ちます。


「権利」であれば、妊娠中にその権利についてきちんと説明をしなければいけない責任が施設側に生じるという理解も成り立ちます。
今までは、関心があって質問があった場合のみ、「こういうメリット・デメリットがあります」「当院では安全性の面から実施していません」と説明していました。


というより、うちのクリニックではほとんど希望される方も質問もないのが現状というところ。


ところが「人間性発露の面から見ても、親子が育みあるという母子の当然の権利」となると、施設側には実施する努力義務が出ることになります。
今までは説明をする必要もなかった「早期母子接触」について、全ての妊婦さんに対して説明をする時間を確保しなければいけなくなります。


「権利」であれば、「希望者のみ」という部分に齟齬が生じるのではないでしょうか?


なぜこんな強い表現が今回使われたのか、まずその点を明らかにして欲しいものです。
ただただ、困惑という感じです。


早期母子接触の「有益性や効果だけでなく児の危険性についても十分に説明する」。
人間性の発露や母子の権利のためには、生まれた子を崖から突き落とすような危険性と厳しさも必要ということでしょうか。
なんだかなぁ。


ところで、早期母子接触を積極的に進めようとしていらっしゃる方々は、まず早期接触なんて言葉もない時代にお生まれになった年代だと思います。
早期母子接触をしなかったことが、何かその後、人間性発露に問題があるとお感じになられているのでしょうか?
そのあたりを明らかにしていただかないと、仮説としても成り立たないのではないかと思います。


「早期母子接触」もう少し続きます。