災害時の分娩施設での対応を考える 14 <医学会の情報共有システムがない>

現代医療というのは、医師が医療体系の中心にいます。
そして私たち医療従事者というのは、医療法や関連法規の中で「医師の指示のもとに」働くことが規定されています。


これは「医師が偉い」とか「看護職は貶められている」という感情の問題ではなく、「医学知識」をどれだけ有するかという資格上の序列です。


その医学知識を核にして、私たち助産師や看護師は看護の分野での専門職という位置づけです。


平時でも新たな治療法や検査が開発された時には、それに対応して新たな看護が必要になり看護基準や看護手順が作成されていきます。


ただ、平時にはその流れがそれぞれの施設に限定されていることがほとんどです。何年かして、ようやく全国的に看護基準や手順というものが少しずつ標準化されていきます。


ところがあの原子力発電所事故による放射性物質への対応は、刻々と変化する状況で最悪の状態を考えながら、国全体で健康の不安への臨機応変の対応を図る必要がありました。


ふだんなら「医師の指示に基づいて」というのは一緒に働く医師のことですが、あのような緊急時には医学会から出される情報がそれにあたると意識していた看護職はどのくらいいたでしょうか。


あのような非常時に医療の「指令塔」はどこなのか、看護職は考えて行動できていたのでしょうか。


自分の職場での医師との関係だけでなく、日本の医療全体の指揮系統を考えて行動できるような情報網が看護師・助産師の中にあるのでしょうか?


あの未曾有の大震災直後、私は仕事上必要な医療の情報はネットに頼るしかありませんでした。


看護関係の組織には、そのような機能を期待できませんでした。




日本看護協会の対応>


現実に半数以上の乳児がミルクを併用している状況で、水道水の放射性物質の汚染は乳児の生命線への脅威ともいえる状況でした。


幸いにして短期間で収束できましたが、今後も災害だけでなく健康への不安が高まるような状況、たとえば1996年のダイオキシン問題もそうでしたが、そういう時に医師(医学会)の方針がきちんと看護職に伝わり、統一した対応を図ることができるようなしくみが必要ではないかと、末端で働く私は痛感しました。


ペリネイタルケアや助産雑誌では、バックナンバーの目次を見る限り、2011年3月24日に出された二つのお知らせに関して掘り下げた記事や解説も無かったようです。


所属している日本看護協会からも、当時はこの二つのお知らせを看護協会会員や妊産婦、授乳中のお母さん達に積極的に広げていこうという働きはなかったように記憶しています。


ただ、いつ開催されたか日付がないのですが、日本看護協会では会員向けの原子力災害に関する講義をしていたようで、ネット上で公開されています。

「原子力災害と看護職の役割 被ばく線量の推定の仕方」
「講義資料01〜09」
「講義資料10」
「講義資料11・12」

最後の「講義資料11・12」の中に「原子力災害と看護職の役割  妊婦さんへの健康被害相談にあたって −無用な不安をなくすためにー」がありますが、講義ということもあって放射性物質の基礎知識の学習が主のようです。


医療従事者個々が放射性物質について適切な知識を持てれば理想的ですが、現実には無理です。


あわてて一から勉強する前に、現実的な対応を迫られている状況では、とにかくあの二つのお知らせの存在を知らせることが効果的だったのではないかと残念に感じます。



日本助産師会の対応>


私は日本助産師会には入会していないので当時どのように対応していたのかはわかりませんが、ネット上に以下の呼びかけが公開されていました。

「放射性物質による被ばくを心配されている妊産婦さん・赤ちゃんを持つお母さん・女性の皆さまへ」
日本助産師会

いつの発表か日付がないのですが、日本産婦人科学会が出した呼びかけが紹介されていることは大事だと思います。
もうひとつの日本小児科学会などの呼びかけが紹介されていない理由はわかりませんが。


さらには、「周産期・小児医療に従事している助産師・看護師は、今後もこれらの学会からの発表に注意すること、その内容を十分に理解した上で説明すること」の呼びかけがあったらよかったのではないかと思います。



あのような混乱時に必要なのは、医療従事者として信頼できる情報をどのように入手するかにつきると思います。
そういう意味で、看護関係の職能団体が医師側の出す声明や情報を末端で働く看護職に周知させるしくみを早急に作っていただけると良いと思います



<ちょっと気になったこと>


日本助産師会は上記の中で「根拠のない風評に惑わされることなく、正確な情報にもとづいた判断と行動をお願いしたい」と社会に向けて呼びかけています。


その相談先として「全国の子育て・女性健康支援センター」をリンクしていますが、大丈夫でしょうか?


それまでの助産師と代替療法のつながりを考えると、放射性物質から身を守るために味噌やら特定の食品をすすめたり、ホメオパシーやその他の代替療法が跋扈しているのではないかと心配です。





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