災害時の分娩施設での対応を考える 1 <電気と水がない災害時の分娩に必要なことは何か?>*2013年7月23日追記あり*

昨日も書いたとおり、日本看護協会から出された「分娩施設における災害発生時の対応マニュアル作成ガイド」はあくまでもマニュアル作成のためのガイドなので、最低限の骨組みを示すものでしかありません。


それでも、その骨組み自体が現実に即していない内容であれば、あっても役に立たないどころかかえって無駄にもなる可能性があります。


<災害時の分娩介助についての問題点>


先の東日本大震災の際、私の勤務先がある南関東でも計画停電や断水あるいは放射性物質による水道水汚染の可能性など、非常事態ともいえる毎日が数ヶ月続きました。


被災地あるいは計画停電にあたった施設では、もっと過酷な非常事態に直面していたはずです。


その被災地の状況がまとめられたものとして、「産婦人科の実際」2012年1月号(金原出版)では「特集 緊急有事における産婦人科体制づくり」としてまとめられていましたし、「助産雑誌」2012年6月号(医学書院)の「特集 東日本大震災の記録」、「看護管理」vol.21 No.08,2011年(医学書院)の「東日本大震災への医療支援の記録 日本赤十字社の取り組みと被災地からの報告」、そして「ペリネイタルケア」2013年3月号の「特集すぐに役立つ!災害時の助産業務マニュアル」*がありました。


そうした特集を当時の緊迫感が蘇る想いの中で読んだ時に、一番知りたい部分は「電気と水が止まったときの分娩と帝王切開や救命救急にどう対応するか」「そのためにどのような準備が必要か」ということでした。


そして周産期センター・総合病院・クリニックというそれぞれの分娩施設の規模に応じた、非常事態への対応とは何かということでした。


参考になることも多かった上記の特集の中でも、私の知りたいことは残念ながらあまり書かれていませんでした。


産婦人科の実際」の特集では、自家発電で非常電源が確保されている周産期センターの報告でしたが、日本の分娩の半数に対応している診療所では自家発電を有している施設がどれほどあるのでしょうか。


また「助産雑誌」では「懐中電灯でのお産」という助産所の記事が掲載されていました。
本当に大変だったことだろうと思いながら、読ませていただきました。


でも「普段より分娩台を使用せず、明かりを落とした環境で分娩介助を行っていたので、普通の部屋でランタンや懐中電灯の光のもとで分娩すること自体は何ら問題はなかった」ということを、あの大規模災害から得た教訓として編集するのであれば、それはやはり違うと思います。


電気がなければ、懐中電灯で分娩介助せざるを得ないことでしょうし、日ごろ分娩介助をしている専門職であるならばそれには対応できると思います。
たとえば、妊娠高血圧症候群で子癇(しかん)発作といってけいれんを起こす可能性のある方の分娩時には、部屋を暗室のようにして最小限の光で分娩介助をすることもあります。


分娩台での分娩介助に慣れている助産師でも、停電で分娩台の操作が不可能な状況であれば、ベッドでもどこでも対応できると思います。
それほど難しいことでもないはずです。


非常時の分娩介助で最も問題となることが電気と清潔な水の確保と、それを最小限の使用で分娩に対応するための管理だと言えます。


あれだけの経験をもってしてもなお、まだ私の求めている情報にはなかなか出会えない。
そんな歯痒さを感じています。


<電気と水の使用を最小限に抑えた分娩介助>


大規模災害のような非常事態で、電気(あるいは電池)と水の使用あるいは物品の使用を最小限にして、かつ安全に分娩介助をするためにはどうしたらよいでしょうか?


児娩出時の血液や羊水がもっとも飛び散りやすい状況で、周囲の汚染を最小限にして介助するのに適した方法は、仰向け(産婦さんの快適性のためには上体をすこし起こしたもの)あるいは側臥位で、分娩用の滅菌マットの範囲で児娩出を図る介助方法です。


どんなに産婦さんが「立って産みたい」「しゃがんで産みたい」「四つん這いで産みたい」と言っても、血液・羊水あるいは産婦さんの便による周囲の汚染が少ない介助方法は、仰臥位>側臥位>それ以外の姿勢となることは明らかです。


また、児の娩出状態を最小限の光源の中で確認し、できるだけ会陰裂傷を少なくするための介助方法は仰向けになってもらう方法です。


しかも新人級の助産師でもより安全に介助できる方法です。


災害で電気や水の供給に不安がある状況だからこそ、産婦さんの快適性は多少我慢していただきながら、安全にたくさんの産婦さんと赤ちゃんを守るための管理を優先する必要があるはずです。


これほど自明なことをあえて言わずに、災害時のマニュアルにまで「フリースタイル分娩」という言葉を織り込もうとするのは、何かの信念があって現実の対応策が見えなくなってしまっているように感じてしまいました。


<追記、2013年7月23日>
*ペリネイタルケアを補足しました。




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