つじつまのあれこれ 66 「おコメ券」と市場原理と市場原理主義

「お米クーポン」を耳にした時、最初は「ほどこしやばらまき」の政策に戻るのか、あるいはすでにそれを実施していた大阪府の維新との連立への忖度なのかとか、いろいろ混乱しました。

 

ところが元維新の元府知事が新しい農水大臣に対して「米価格を上げる方に関与!野党突っ込んでくれ」(10月24日)とXに投稿したのを機に、ネットニュースのコメント欄は「ばらまきなんて後戻り」「せっかく増産したのに減産なんて」「やっぱり農業利権」と更迭まで求める嵐が起きていました。

まあ、ステマの世界だし、政治家の一挙一動で株価の上下が経済ニュースになって稼ごうとする世の中ですからね。

 

それで、実際の就任会見を読んだのですが、一言も「減産」とは言っていないし、「米価格を上げる」とも言っていないのになぜこんなにすれ違って批判されるのだろうと思っていました。

 

 

イデオロギーまでねじれる*

 

さらに「"おこめ券"は社会主義的なやり方」(10月27日、スポニチ)とまで、また元維新の方が批判しています。

 

だったら大阪維新や東京都のお米クーポンも「社会主義的」ということで、なんだか批判もつじつまがあわなくなってきましたね。

 また「高く価格を維持して、クーポンみたいなもので国民の負担をやわらげるっていうのは、社会主義的なやり方」と繰り返し、「本来資本主義のやり方というのは、需要と供給、供給量っていうのを民間に任せておいて、ただ農家さんの生活が苦しくなった場合だけ、国が出ていきますよっていうのをやる」と橋下氏。「今、高市政権で鈴木大臣のやり方は、そうじゃなくて国が全面に出てきて、価格はもう"高止まりで維持しますよ”って言っているに等しい」と語った。

それなら「高校無償化」も社会主義的といえそうですが、私立へ誘導し公立校の定員割れから統廃合を目論むという新自由主義あるいは新しい資本主義ってやつですかね。

 

そして前首相からは「不愉快」と背後から撃たれていました。

公明党は連立を離脱しました。

自民党が野党で苦しい時、一緒にやってくれたことを忘れたらいかん。維新は新自由主義的、自民党政治がいわゆる保守の路線へさらに傾くことにすごく違和感がある。

ーコメ政策では、石破氏が掲げた増産方針を転換させてますね。

不愉快な話だ。コメは安いほどいいとは言わないが、消費者が常に求められる値段であるべきだ。(米価高騰で)コメが足りないのは証明されたようなもの。値段が下がるのはいかんので増産はやめと言われると、それは違う。

中国新聞ヒロシマ平和メディアセンター、2025年10月30日)

 

一見、消費者の方を向いているような言い方ですが、「米がない」からお米がどんどんと高くなっていった時に「日本のおいしい安全な米を世界に提供するのは、日本がやるべき国際社会に対する責任」と言った首相ですからね。

 

ほんと、イデオロギーは闘争的な観念だとつくづく思うこの2週間でした。

 

 

*同じ「米の輸出促進」でもみているものが違うのかも*

 

さて、「おコメ券」は何を目的にしているのだろう。

何度も「農林水産大臣就任記者会見概要」(令和7年10月22日)を読み返してみました。

 

生産者はもちろん国民全体へ配慮した表現で、記者さんへの丁寧な回答が1時間20分ほど続いていますが、その中で「米の輸出」への質問にはこんな回答をされています。

米の輸出、これは実は私が農林水産省をやめて衆議院議員になろうと思った時の最初の公約が「米の輸出は、目標は100万トン」、これでありました。その当時はみなさんから「日本の米は高すぎるから輸出なんてできないよ」、こういうふうに私の農林水産省の先輩も含めて、ご指導いただいたのを今でも思い出します。

Wikipedia2012年にTPP参加反対を公約に当選と書かれているので、てっきり2008年に米の輸出促進で「史上最低の農林水産大臣」と言われた石破氏と正反対の考え方と思っていたので意外でした。

 

石破氏の「米の輸出促進」と現農林水産大臣の「米の輸出促進」はどこが違うのだろう。

 

何度も会見概要を読んでいるうちに、少しずつ見えてきました。

 

「米価が高騰して、昨今だと海外の輸入米が増えているというところが、農家さんからしても懸念では」という質問にこう答えていました。

申し上げなければいけないのは、米価が高騰しているというときというのは、海外に輸出するよりも国内で売ったほうがいいのではないか、というときなのではないかと思います。それはまさに輸出をする事業者の皆さん、もしくは輸出米をつくる生産者の皆さんが、それぞれのマーケットの状況を踏まえ、どうすべきかということを判断していただけるのだというふうに思っています。それは政府がどうこう言うべきではないと思いますが、何よりも供給力がある米ですから、供給不足じゃないかと言う事態を今後金輪際、自然の影響を取り除いて、私たちのこれは需要を見誤るみたいな状況で、もしくはマーケットからのシグナルを受け取る感度が正直鈍くて、機動的な備蓄米の放出ができなかった。こういう事態はもう二度としない。この決意であります

 

現大臣の場合、投機ではなく国内での米の需要と供給を大事にするというあたりでしょうか。

 

 

*市場原理と市場原理主義

 

「機動的な備蓄米の放出ができなかった」

ここだけ読むと、「ほら、やっぱり昨年の秋に大阪府知事が備蓄米放出するように言ったのは正しかった」と受け取られそうですが、大臣は「備蓄米は全体量が不足しているから出すもの」であって「価格が高いものを下げるため」ではないと答えていました。

 

つまり、昨年の米の混乱は地震や猛暑といった自然や気象によって供給不足になったのではなく、高価格帯の輸出向けの米価に引っ張られて家庭向けの多様な価格帯のお米まで高値で取引され、さらに売り時をはかってますます高騰した。

あるところにはあったが、そこへ向けてどんどん「価格を下げるために」備蓄米を放出したから昨年度のお米が今だぶついている。

つまりは、米を投機的商品にしてしまったゆえに起きた混乱。

それを暗に説明しているのだと受け止めました。

 

 

昨年の混乱の契機となったのが、あの2000年代に「市場経済化の極地(最果て)といえる穀物取引市場」として自民党が反対し続けていた先物取引が昨年とうとう上場したから。

2021年の時点ではまだ「そもそも国内の需要が減りつつある現状を考えれば、価格の乱高下などは起きようがない」という認識であり、維新が国にコメ先物取引の本上場をぜひやってもらいたいと言っていたのですからね。

 

ところが、実際に蓋を開けてみると米の生産や流通に携わる方々が先物取引に対して2000年代に預言した通りの大混乱が起きてしまった。

だから慌てて昨年秋に「備蓄米の放出」をいい、国会で維新の議員さんが「先物取引が米価を上げたわけではないという言質をとったのでしょう。

 

 

「自由」とか「民主」が新自由主義や新資本主義にいつの間にか変質しているかのように、一般の人が「市場」と思っていたものは「市場原理主義」になりつつある。

国民にその方向性を問うたわけでもないのに。

 

「おコメ券」は、そのだぶついた供給から米価の急激な下落を防ぎ、国全体で米の需要を高めることが目的のようです。

どうやら「コメ先物取引の上場は恒久的」のようですから、今後、どうやって調整していくか、農業の新たな葛藤の時代ですね。

 

まあきっとこの混乱の種を蒔いた人たちは知らないふりをして、うやむやにしようとしていると思うことにしましょうか。

虚業がはびこる政治と経済には無知のアリの妄想ですけれど。

 

 

 

*おまけ*

市場原理主義

市場での自由な競争に任せておけば、価格・生産ともに適切に調節され、ひいては生活全体も向上するという考え方。政府による市場への介入や規制などの極小化を主張する。→自由市場→新自由主義マネタリズムレーガノミクスサッチャリズムレッセフェール

[補説]米国の経済学者ミルトン=フリードマンが提唱し、米国のレーガン政権、英国のサッチャー政権の経済政策に大きな影響を与えた。日本でも中曽根・橋本・小泉政権などがこれに基づいて規制緩和構造改革などを推進。バブル崩壊後の景気回復など一定の成果を上げたが、一方、格差社会の深刻化や2008年の世界金融危機への影響も論じられている。

コトバンクデジタル大辞泉

まさに自分の人生と重なる時期ですが、ほんと、現代の政治や経済には疎いですからね。

また宿題が増えました。

 

 

 

 

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