ケアとは何か 33 日常生活が途切れる時の支援

帰国後にどこかに隔離されたり停留されることへ抵抗感が大きいのは、世界の感染症の最前線で働いていたNGOスタッフでさえも犯罪者のように扱われた と感じ、国際赤十字赤新月社まで科学的知見に基づかない隔離を含む差別をするなと混乱していたのが、わずか数年前のことでした。

 

国際空港に到着したヒッコックさんは検疫所に案内され、入国管理官とみられる白い防護服に全身を包んだ男性からまるで犯罪者を相手にしているように大声で質問を投げかけられ、その場に3時間も留められた。 

 

 

隔離や停留を知っていたであろう国際医療救援のスタッフがなぜこのような感情になったのかは想像するしかないのですが、 さすがに現在はこのように主張する医療従事者のインタビュー記事は載せないだろうと思うほど、世の中に感染症拡大時の隔離というイメージが浸透していったのではないかと思います。

 

 

*病気になることよりも日常生活が途切れることへの不安*

 

新型コロナウイルス感染症が話題になった頃から、「もし私が帰国者だったら」「もし私が感染疑いや濃厚接触者になったら」というあたりを想像する毎日です。

 

たとえば、感染拡大地域から帰国してきた場合、何を準備しなければいけないのだろうと厚生労働省の「新型コロナウイルスに関するQ&A(水際対策の抜本的強化)」を読んでみました。

「以下の対応をお願いします」とあります。

□健康状態に異常のない方も含め、検疫所長の指定する場所(自宅など)で入国の次の日から起算して14日間待機し、空港等からの移動も含め公共交通機関を使用しないこと

□このため、入国前に、ご自身で入国後に待機する滞在先と、空港からその滞在先まで移動する手段(公共交通機関以外)を確保すること。

□入国の際に、検疫官によって、入国後に待機する滞在先と、空港から移動する手段について検疫所に登録いただくこと。

 

さらりと描かれていますが、私の場合、「空港等からの移動も含め公共交通機関を使用しないこと」で自宅へ戻ることができそうにありません。

では、宿泊費はなんとでもなるからホテルへといっても、宿泊を断られたらどうしたらよいか。

便利なMacの地図で計算してみました。成田空港から自宅までおよそ78km、主に国道を歩いて17時間34分だそうです。

 

みなさん、実際にどうやって自宅へ戻ったのでしょうね。

 

もし空港近くに2週間宿泊できるのであれば、お金を出してもそこで留まることを私なら選択しようと計算してみました。

一泊7000円のビジネスホテルとして、2週間で9万8000円。コンビニにいけないとなれば食費も1日に3000円として4万2000円。

貯蓄がある人なら大丈夫ですが、仕事で頑張ったなけなしのお金で海外旅行!という人には相当な出費になりそうです。

1泊2万円の部屋しかないと言われたらどうしましょうか。

そしてその間の自宅の維持もしなければならないので、高齢者夫婦のどちらかが介護施設に入ると自宅分と施設分で住居費などの生活費が2倍になる状況に似ています。

 

 

仕事の調整は、常勤なので勤務先の皆さんには平謝りで許してもらい、2週間の有給で対応。

ホテルの部屋から一歩もでるなと言われれば、私は一日中窓の外の風景をみていられれば、ちょっと遠出の散歩で宿泊した気分になって苦にはなりませんから、そのあたりは大丈夫。

反対に、自宅にたどり着いた方が、その後の2週間の食事や生活必需品をどうするかで相当悩みますね。あるいは自主隔離できる部屋数がない家もあるかもしれません。

 

ただ、この2週間の「自宅」待機が、社会的にも経済的にもその後の人生の分かれ道になるような切迫した状況に追い込まれる方もいらっしゃることでしょう。

 

 

空港に着いたとたん、 あまりに日常生活が激変する状況に追い込まれたことでの混乱は想像に難くありませんね。

厚生労働省のお願いを聞き入れる余裕がない人も多かったのではないか、それが自衛隊が自主支援で空港からの帰国者の輸送や宿泊を始めた背景ではないかと感じているのですが、実際はどうなのでしょう。

 

*日常生活が続けられるような隔離の方法*

 

今回の状況では、空港で防護服を着た人に2週間ほど「監禁される」ホテルや施設へ連れていかれても安心する人の方が多いのではないかと思います。あるいは海外に行っていなくても、感染疑いとか濃厚接触の可能性が出てきたときにも。

 

そういう意味では、韓国での「生活治療センター」のニュースは記録しておきたい内容でした。

韓国 新型コロナ ホテルや研修施設などを軽症者の隔離施設に

(2020年4月3日  NHK NEWS WEB)

 

3日で感染者の数が1万人を超えた韓国では、新型コロナウイルスの検査を積極的に進めていて、それに伴い増加する感染者に対応するため。病床の確保も工夫しています、

そのため先月から導入されたのが「生活治療センター」です。生活治療センターはウイルスの感染が確認されたものの、症状が軽く入院する必要性は低い感染者を中心に隔離するための施設です。

センターの患者には体温計や医薬品の入った衛生キットや、下着、洗面道具、マスクなどが支給されるほか、食事も無料で提供されます

また、毎日2回、体温を測るなどして常駐している医療スタッフが経過を見守り、必要に応じてエックス線の検査なども行われるということです。

センターはホテルや企業の研修施設、スポーツのトレーニング施設など既存の建物を活用する形で運用されています。現在は感染者が多い南部のテグ(大邱)や、首都ソウルなど17箇所に設置され、合わせておよそ1200人が滞在しているということです。

また、今後、感染がさらに拡大した場合に備えて、センターとして対応が可能な施設の手配も進めていて、およそ1万2000人を追加で受け入れることができるということです。

韓国では当初、入院できずに待機している間に亡くなった人も出ており、症状が重い人を集中的に病院に搬送する一方で、そこまで深刻ではない感染者は生活支援センターなどで様子をみることで、治療を効率的に進めることがねらいです。

チョン・セギュン(丁世均)首相は「生活治療センターで症状の軽い患者たちに最小限の医療サービスを提供し、家に戻れるようにするなど、限られた資源を最大限活用しながら、韓国ならではの方法で危機を乗り越えて着た」と意義を強調しました。

韓国ではこれまでに44万3000人以上が検査を受けていて、現在、生活治療センターに滞在している人を含めて、3867人の感染者が隔離されているということです。

 

国や地域によって医療のシステムや規模、あるいは文化が違うので、この方法が日本に合うかどうかはわかりませんが、赤字強調した部分が印象に残ったのでした。

「生活治療センター」という名称もいいですね。

そう、隔離されても人は生活をするのですから。

 

感染拡大防止のために一定の場所に留まるには、「日常生活を維持できる」ことが背中を後押ししてくれることでしょう。

そしてそこを出た後の生活も、一定期間は経済的に保護しますとしてくれたら、敷居は下がるのではないかと。

そういう経費も本人の負担が少ないように、ここはなんとしても政府が思い切って「無料提供」を増やしていくことが、感染症拡大という災害時には必要なのかもしれません。

 

「それなら入ってみよう」と思わせるように。

 

 

 

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