鵺(ぬえ)のような 17 都市伝説がまたひとつ

入院されている産婦さんやご家族からいまだにけっこうな頻度で訊ねられるのが、「満月や台風、低気圧の日はお産が多いのか」という質問です。

あるいは「〇〇は効果があるのですか」「△△した方がいいですか」と巷で話題になっていることも訊ねられます。

 

満月とお産の関係はともかく、ほとんどのことが検証もされていないレベルの話なので「それをした場合としなかった場合でもそれほど変わらないこともあるので、わからない」と答えるのですが、「わからない」にどこまで納得していただけたかどうか。

きっと勉強不足なスタッフと思われるだろうなと思いながら、私自身、わからないことに忍耐強くなったと思えるようにはなりましたが。

 

ニュースやネットで育児関連の話題が出るとああまた質問がくるだろうな、とりわけ「科学的に解明された」なんて手強いなと戦々恐々です。

 

 

*「哺乳類の輸送反応」?*

 

先日も、「ママパパ必見!泣いている赤ちゃんを寝かしつける方法を科学的に解明」(2022年9月14日、テレ朝ニュース」がありました。内容を読むと哺乳類の輸送反応が書かれていて、これはだいぶ前から時々耳にする話題です。

いつ頃からか検索すると2013年が最初のようです。

 

そのころはすでにブログを始めていた頃で赤ちゃんは置くと泣くのはなぜかとか、赤ちゃんを一瞬で泣き止ませる方法赤ちゃんの泣き声がわかる機械のように、「赤ちゃんを泣き止ませ眠らせる方法」が人類の永遠の課題なのだろうなと思っていました。

つまり「わかるのは大変だろうな、永遠にわかり得ないこと」かもしれないという話です。

 

ところが「抱っこして歩くと赤ちゃんがリラックスする仕組みの一端を解明 ー経験則を科学的に証明、子育ての新たな指針にー」(理化学研究所、2013年)と、「科学者が解明」と言われるとこれはややこしいことになるかもしれないと少し警戒した記憶があります。

科学者ではない「ど素人」の側にすればなんか変だなと思ってもそれに反論するほどの「科学的根拠」は持ち得ないし、いったんそれらしく広がった言葉や話はなかなか回収できないですからね。

 

さて、今回のニュースは以下のようでした。

 泣いている赤ちゃんを泣き止ませるまで寝かしつける効果的な方法を科学的根拠に基づいて解明したと、理化学研究グループが発表しました。

 理化学研究所の黒田公美チームリーダーらの国際共同研究グループは生後7か月以下の赤ちゃん21人と、その母親を対象に、赤ちゃんを抱っこして歩いたり座ったり、ベッドに寝かせたりした時などの赤ちゃんの状態と心電図を記録しました。

 その結果、激しく泣いていた赤ちゃんは抱っこして歩いた時やベビーカーに乗せて前後に動かした時には泣きやむことが多く、座ったままの抱っこでは泣きやまないことが分かりました。

 泣きやませるのに最も効果があったのは抱っこ歩きで、5分間行った場合には全員が泣きやんで約半数が眠りました。

 

 これは哺乳類の赤ちゃんに備わっている親に運ばれる時におとなしくなる「輸送反応」と言わる反応が関係しています。

 

たしかに赤ちゃんを抱っこして歩くと寝てくれることもあるので、納得しそうになる人がいらっしゃることでしょう。

 

ただ「約半数は眠りました」というのはそれをやって効果があったといえるのか、やってもやらなくても同じというのか微妙ですね。

 

 

*哺乳類もいろいろ、「赤ちゃん」という時期もいろいろ*

 

今回の研究では、赤ちゃんの心拍数が抱っこされている体が親から離れ始めた時に速くなって覚醒し始めることに注目したようです。

 

「輸送反応」についてはこんなことが書かれていました。

 野生動物の親は脅威から逃れる時などに赤ちゃんを運びますが、泣いたり暴れたりすると危険なため、安全に運べるよう親に協力する反応だと考えられていて、人間の赤ちゃんにも同じ反応があることがわかっています。

(強調は引用者による)

 

「泣いたり暴れたりすると危険なため、安全に運べるように親に協力する」

本能的とはいえ、そこまで何かを察知し理解して行動するというのですから、野生動物とヒトでは種によっても、「赤ちゃん」といっても段階が全く違うのではないかと思います。

ヒトの赤ちゃんの場合、立ち上がる身体的自立でさえ長い時間が必要ですからね。

生後7か月ごろまでのヒトの赤ちゃんと、野生動物の赤ちゃんは全くちがう発達段階ではないかと思います。

 

そもそも「脅威に立ち向かう親」を認識してしがみついている野生動物の赤ちゃんはおそらく緊張感で心拍数も上がって、「揺られてリラックスして眠り始め、心拍数が下がっている」ヒトの赤ちゃんとは違う状況ではないかと想像するのですが。

いえ、私にはヒトの新生児の生活史でさえ、どのように観察し記録するのか全く方法論がない状態なので、どのようにこの結論が導かれたのか素朴な疑問です。

 

いろいろ検索するとそれが「○○家流寝かしつけ法」になっていますが、それは「科学的」といえるのでしょうか。

 

 

すでに反証の機会もなく参照されて、あちらこちらのマスメディアで使われているようです。

「生まれたばかりの赤ちゃんにも輸送反応って効果があるのですか」と質問されたらどう答えましょうか。

 

 

 

 

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