落ち着いた街 41 北楯大堰の水が流れる街

狩川駅で代行バスを降りました。

ほんとうは一つ手前の清川駅から北楯大堰の取水堰を訪ねて水路沿いに歩こうと思っていたのですが、猛暑日だったことと時間的にも厳しいことから狩川駅の周辺を歩くことにしたのですが、下車すると強い川風が吹いていたので正解でした。

 

駅舎にJR東日本による「狩川駅の駅名由来」がありました。

「狩川」という地名は、川端の草地を焼畑にしたときに付けられる土地の名称だといわれています。また、かつて領主の狩り場であり、中央には最上川も流れていたことから「狩川」と名付けられたのだという説もあります。

 最上川河岸の肥沃な土地で、その昔「小野千軒」と呼ばれた大集落があったといわれ、明治時代中頃までは「狩河」と表記されていました。最上川南岸一帯は、最上義光(よしあき)の家臣・北楯大学助利長(きただてだいがくのすけとしなが)が、立谷沢川からの水路を開いて開田、その後は良質な庄内米を産する土地として知られていきました。

 

 この地名の由来を受けて、陸羽西線の新庄〜余目間開通の翌年、大正三年(一九一四)八月十六日、狩川駅が開業しました。出羽三山の入り口に当たることから「羽黒駅」という名称も出案されましたが、現駅名に落着したという話も残っています。

 

わずか10行ですが、この地域の歴史や雰囲気が読み取れるありがたい説明ですね。フリガナがあるのも助かります。「よしあき」とは読めないですからね。

 

次の代行バスまで1時間5分、この街をぐるりと歩くことにしました。

 

*北楯大堰沿いに歩く*

 

MacもiPhoneの地図もどちらも「北楯大堰」と水色で表示されているのですが、肝心の水色の水路が全く描かれていません。

現地に行っていちかばちか探すしかないと、まずは北楯神社を目指して歩き始めました。

駅前からの道路は、消雪パイプが埋め込まれていて一面茶色になっています。どれくらいの雪が降るのでしょう。

 

県道46号沿いの商店街の向こうに小高い場所が見えました。そこに北楯神社があり、山の際に水路がありそうです。

 

栗の実がはぜて地面にたくさん落ちている場所を曲がると、稲穂が揺れる美しい水田が見えて、山に沿って用水路がありました。美しい水路でしばらく立ち止まってその流れを眺めました。

そばに案内板がありました。

山形県の歴史的土地改良施設 疏水百選 北楯大堰(きただておおぜき)

 昔、この地域は最上川京田川よりも土地の標高が高いため、その豊富な水を利用することができませんでした。慶長17年(1612年)、当時この地方を治めていた最上義光の家臣、北楯大学利長により最上川左岸の支流である立谷沢左岸で取水し、庄内平野に向かって流下する北楯大堰用水路がつくられました。この用水路により、水田の開発が盛んとなり村々がつくられていきました。

 その後、県の2つのかんがい排水事業(昭和17(1942)〜昭和46(1971))で頭首工、揚水機場、用水路をつくり、最上川からも直接水を引き、又、下流明治41年に完成した吉田堰用水路ともつなげて水を流すことになりました。

 しかし、これらの施設が古くなり悪くなったので、最上川下流農業水利事業(平成5〜平成13)と最上川下流沿岸水利事業(平成13〜平成22(予定))の二つの国の事業で直しています。

 この北楯大堰は、平成18年、日本の「疏水百選」にも選ばれた他、地元には北楯大学を祀る北楯神社があり、毎年、水田への通水開始時に関係者が多く参列して例大祭が行われています。北楯神社の近くには北館大学利長銅像が地元の人の手で建てられています。

 

最上川のすぐそばにありながらその水を得ることができなかった地域の、17世紀から現代までの歴史がまとめられていました。

 

 

*水路沿いに歩く*

 

 

しばらく山際に沿って流れる水路を追いかけながら歩くと、用水路は住宅街を離れていきました。

 

駅の近くに見えた大きな屋根瓦を目指すと見龍寺で、北楯大学のお墓がありました。

お寺の前には石積みの美しい分水路が流れています。

その水路に沿って歩くと、分水堰の水門がありました。北楯大堰の水路からいくつもに分水されてこの地域を潤している水です。

 

もう少し歩いてみたかったのですが気温は35度を超えて汗が吹き出してきました。

駅舎に戻って、北側に広がる水田地帯を眺めることにしました。

 

冷房にほっとしたところで、無人駅だと思っていたら職員のかたがいらっしゃったことに気づきました。やはり、人がいる気配というのはなんだか安心ですね。

 

 

17世紀には水を得ることもできなかった地域だという歴史が信じ難いほど、真っ青な夏の空に稲穂が風に揺れる田んぼと美しい水路がありました。

今、写真を見直すだけで、その歴史の重みが風の音とともに蘇ってくる街でした。

 

 

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