平城宮跡に広がるツルボの風景はまた幻に終わったのですが、まだ10時ですからこれからいくつかの周濠をまわる予定です。
2022年8月に訪ねた水上(みずかみ)池の周辺にはたくさんの周濠とため池があります。いつか歩いてみたいと思っていました。
佐紀神社への途中に小さな田んぼが残り、良い香りがしていた場所へと向かうと、今年も無事に黄金色の稲穂が重たく実っていました。
平城宮跡歴史公園が広がっているのを見ながら、少し森のような道に入ると佐紀神社があり、そこに南北に分かれたため池があります。
今回はこの北側のため池沿いに歩いて、さらに北側のいくつかの周濠を歩きます。
ため池の西側にも鬱蒼とした鎮守の森があり、ここも佐紀神社のようです。水の神様かどうかわからなかったのですが、この地域の水をいつまでもお守りくださいとお願いすると、静寂の中に柏手の音が響きました。
隣接している釣殿神社の間の竹藪の道を抜け、さらに北へと向かうと昨年3月に歩いた山上町にある日葉酢媛命陵への道標がありました。
畑とため池があり、さらに北へと上り坂を歩くと瓢箪山古墳があります。地図には水色の周濠が描かれているのですが、鬱蒼とした森の中の起伏のような場所には水はありませんでした。9月初旬ですから蛇やら虫に遭遇するのも怖いので早々に退散して、次の場所を目指します。
つくつくほうしの声の中、坂を上り切るあたりから高台に作られた住宅地と畑が広がりました。
1970年代か80年代ごろの開発でしょうか、住所はその名も佐紀新町(さきしんまち)でした。突如として現代に戻ってきたかのような錯覚です。
*水上池の周囲の周濠と田んぼ*
県道751号線の東側に、名前のない大きなため池があります。次にそこを目指しました。ため池に向かって少し下り坂になり、ところどころ田んぼだったと思われる空き地が住宅街の中にありました。
ため池の南側には色づき始めた稲穂が広がる田んぼがあり、その先に大きなため池がありました。地図の通り、池の真ん中に二つほど島があります。
周囲の白っぽい土とため池の緑色の水、そして黄緑色の稲穂、青い空、なんとも美しい風景でした。
そこからさらに北へと上り坂を歩くと空き地のような田んぼと畑が混在している場所で、地元の方が暑い中何か作業をしていらっしゃいました。
つきあたりに平城野外活動センターの敷地の森があり、手前の田んぼには黄色に色づいた稲穂が広がり、畦道にはコスモスが咲いていました。
南側は開けていて、そこから少し離れた奈良中心部の灰色の寺社の屋根までが見えます。
いにしえより水に乏しい土地柄だったことが信じられない、なんとも美しい田んぼの風景です。
このすぐ先から磐之媛命陵(いわのひめみことりょう)の敷地で、周濠に沿った道は森の中へ入り込んだようにひっそりと薄暗く続いています。
人とすれ違う方がむしろ怖さを感じながら苔むす石畳を下ってっていくと、古墳の正面への向かう参道が西へと向かっています。
静かな周濠の中には、まるで磐之媛命の心を慰めるかのように睡蓮が咲いていました。
参道の南側は周濠よりも一段低くなっていて、その向こうに水上池が広がっているのが見えました。
参道をまた来た道へ戻り、小奈辺陵墓参考地のそばを歩くと周濠に白鷺が佇んでいました。緑と白、そして青空と美しい風景です。やはり白鷺は古代から日本でも身近だったのでしょうか。
そんなことを考えて歩いていると左手の森だった場所が航空自衛隊奈良基地の敷地になり、白壁と灰色の瓦の自衛隊らしからぬ営門が見えてきて、その前の田んぼも稲穂が重そうに実っていました。
今回はさらに、小奈辺陵墓参考地の周濠の東側にあるウワナベ古墳の周濠へと向かいました。
こちらも大きな周濠でその南端は崖のように高低差があり、その先の田んぼを見下ろすような感じです。田んぼの向こうに若草山まで見えました。
周濠や古墳は宮内庁管理のことが多い印象ですが、Wikipediaのウワナベ古墳にはこう書かれています。
墳丘は宮内庁が、周囲を取り巻く周濠は地元の農家組合が管理しており、現在は上部を植生が覆っている。
だからここから南へと水路が伸びて、田んぼが残っているのですね。
坂道を下り、その畦道を歩きました。
水路には清らかな水が流れ、芹が青々と茂っています。沿道には、萩やピンクの小さな花などが咲いています。
残念ながらここまで歩いてもやはりツルボは1本も見つけられませんでしたが、いにしえからの田んぼが健在なことを見ることができました。
周濠のわずかの高低差を利用しながら、周囲には田んぼがつくられてきたようです。
この田んぼと水の生活史もまた知りたくなりますね。
周濠の水で育てられたお米、食べてみたいものだと思っているとお腹が空いてきました。ふらりと定食屋さんに入り、塩サバ定食にレモネードという充実のランチで、田んぼを訪ね歩いた後はまたご飯のおいしさも格別です。
散歩の4日目、夕方に京都から新幹線に乗るまでにもう少し時間があります。
元気が出たところで、計画通り歩いてみることにしました。
最後の最後に奈良のツルボを見ることができるかもしれないですからね。
「お米のあれこれ」まとめはこちら。