記録のあれこれ 175 何かとシュールな社会の裏が見える

何かとこれじゃあないという政策が多すぎて、なぜここまで政府の方針と国民の生活がズレるのだろうと思っていたのが、ようやく骨太とは何かが見えてきました。そしてそこにいつも現れる「経済財政諮問会議」とやらに。

なぜ現場のニーズとは違うことが次々と投げ込まれるのか、何を急いでいるのか。

 

膨大なニュースや意見が飛んでくるので見失うことが多々あるのですが、最近になってニュースへのコメントの内容でこの昨年のニュースを初めて知りました。

 

何かとシュールな今の世の中の裏の動きが見えてきそうなので、自分の忘備録として残しておこうと思います。

 

 

新浪剛史氏「納期を守るの重要」マイナ保険証後押しが波紋 桜を見る会サントリー不買運動まで蒸し返され…

 

 マイナンバーカード一体化保険証(マイナ保険証)普及のため、岸田文雄政権がかたくなに守る来年秋の保険証廃止。この問題で、経済同友会新浪剛史代表幹事が、廃止時期を「納期」だとして、「納期を守るのは日本の大変重要な文化」と発言、波紋を広げている。あたかも財界が政府に保険証廃止を発注し、その納期を守れと言っているように見えるからだ。一体どういう背景からこうした発言が飛び出したのか。(岸本拓也、安藤恭子

 

 

「日本の大変重要な文化」として連呼

 

 納期発言は6月28日の記者会見で飛び出した。会見冒頭で、新浪氏は「質問があるだろうなと思って」と持論を語り始めた。

 「デジタル社会においてマイナンバーはインフラの中のインフラ」と訴え、「ミスがあるからやめましょうとかやっていたら、世界から1周、2周遅れのデジタル社会を取り戻すことはできない」と強調。政府が健康保険証の廃止を目指す2024年秋を「納期、納期であります」と位置付け、「民間はこの納期って大変重要で、必ず守ってやり遂げる。これが日本の大変重要な文化でありますから、(政府)はぜひとも保険証廃止を実現するよう、納期に向けてしっかりやっていただきたい」と、納期という言葉を連呼した。

 6月末は、マイナ保険証に他人の情報がひも付けられるなど、トラブルが次々と発覚したころ。制度への不安が高まる中で、保険証廃止を推進する姿勢は、世間離れしているように見える。新浪氏とは、一体どういう経済人なのか。

 

「45歳定年制」を唱え炎上したことも

 

 「異色のサラリーマン出身経営者」と評するのは経済ジャーナリストの磯山友幸氏。「もともと三菱商事出身で、ローソンに行って経営を立て直したことでカリスマ経営者とも呼ばれるようになった。その後、サントリーに転身して、プロ経営者としての色彩を強めた。サラリーマンからプロ経営者になった珍しいケースだ」と解説する。

 時の政権ととも良好な関係にあり、その発言は物議を醸してきた。21年に、法律で認められていない「45歳定年制」を提唱し、「中高年のリストラ策だ」と批判を浴びた。今年6月には、政府が児童手当の所得制限撤廃を決めたことに「大反対だ」と批判した。

 

G7で同じことをしている国はない

 

 一方、「最低賃金1500円を目指すビジョンが必要」と賃上げを求め、同性婚の法制化についても「多様性の中で認めていくべきだ」と述べるなど、リベラルな面も。磯山氏は「必ずしも政府寄りではなく、最近の経済人では珍しく、自分の思ったことをずけずけと言うタイプ。良く言えば腹が座っているが、悪く言えば脇が甘い」と話す。

 とはいえ、マイナ保険証への反対論が強まる中で、納期発言に対してX(旧ツイッター)では、安倍晋三元首相が飲料を無償提供していた問題なども再燃し、「サントリー不買運動」なる動きも出た。

 そもそも企業間での「納期厳守」と、幅広い国民を対象とする政府の「実施機関」を同列にとらえる感覚はどうなのか。白鴎大の石村耕治名誉教授(情報法)はいぶかる。「G7(先進7カ国)で、日本のように血税を費やして官製のICカードに保険証を一体化させている国はない。カードがないとデジタル社会に対応できないというのはまやかしだ。経済界はこうした世界の潮流を知っているはずなのに前向きなのは、IT利権があるからではないか」。

 

ヒト・モノ・カネと並ぶ『情報資源』

 

 マイナ保険証は国民によりよい医療を提供するため、というのが政府の説明だ。一見、経済界との関係が分かりにくい。

 だが、名古屋大大学院の稲葉一将教授(行政法)は「新浪発言は今に始まった考え方ではない。2000年代から、経済が求める要望と政府のデジタル化政策とは、歩調を合わせてきた」と指摘する。

 稲葉氏はマイナンバー法が制定された2013年に着目する。同年6月に閣議決定された「世界最先端IT国家創造宣言」は「『ヒト』『モノ』『カネ』と並んで『情報資源』は新たな経営資源」とし、この情報資源の活用こそが経済成長をもたらす鍵とした。

 稲葉氏は「個人情報を資源とみなしたこの段階で、医療や福祉、教育といった分野での情報収集や活用がすでに制定されている。マイナンバーの情報を連携すればその履歴から人物像を人工知能(AI)が解析し、製薬や教材づくりといったビジネス利用も可能となる」と話す。

 

「デジタル化」圧力かけ続ける経団連

 

 前年の12年には、経団連の要求を受け、各省庁の情報システムを統括する最高情報責任者に元リコー副社長が就任。16年にはマイナンバーカードの普及活用の促進を定める官民データー活用推進基本法が施行された。

 17年にはビッグデーターの活用に道を開く改正個人情報保護法が全面施行。個人を特定できないようにした「匿名加工情報」なら本人同意なく売買可能とした。同年の経団連提言「Society5.0に向けた電子政府の構築を求める」は、「公共データの産業利用による新産業・新事業の創出等、わが国の経済社会、国民生活の活性を図り、国際競争力強化に結びつける」ことを掲げ、26年を最終目標年と定めた。

 19年には行政と民間事業者のシステム共通化を図るデジタル手続法も施行され、21年の経済財政諮問会議では経団連会長(当時)らが健康保険証の単独交付を取りやめ、マイナカードへの「完全な一体化を実現すべき」と求めた。

 

 

「政府権力と一体化、あまりに質の低い発言」

 

 稲葉氏は「一つ一つは地味な動きだが、つなげていくと全て個人情報の収集解析につながる。国民は民主主義の主体なのか、資源として情報を吸い取られていく客体なのか」と問う。

 ジャーナリストの斉藤貴男氏は「カードのトラブルが相次ぐ中で、政治の暴走に歯止めをかけるのも本来は財界人の役割。それが政治権力と一体化した新自由主義を象徴する、あまりに質の低い発言で思い上がりも甚だしい。企業の理屈をおしつけるんじゃない」と新浪発言を一喝する。

 マイナ保険証への要請は政府と経済界、とりわけITビジネスとそれに連なる金融などグローバル資本と一体化していると指摘する。「産業界は利益を得たい、政府はそれによって経済成長を促したい。天下り企業献金にも有利にはたら苦」と述べる。

 

 

データが「企業の利益」になる時代

 

 JR東日本は13年、IC乗車券「Suica(スイカ)」利用者の生まれ年や月、性別、乗車駅などの情報を無断で日立製作所に売却して批判を受け、提供を中止した経緯がある。「ポイント付与などは民間活用の一歩。次はこうした交通系の移動やキャッシュレスの買い物などの情報が大きなデータとして活用され、企業の利益となる」

 斉藤氏によると、米国の社会保障番号ベトナム戦争の際の徴兵逃れの捕捉にも使われてきた。「いまはグローバル経済が強いのでそれに使われようとするが、番号制度と国民管理はいつの時代も共にある」。カードの民間利用が進めば、個人情報の漏洩リスクも高まるとみるが「このまま付き進めれば、国策の下で被害があっても泣き寝入りだ」と警告した。

 

 

デスクメモ

 記者にとっての「納期」とは、締切時間。上司のデスクから「あと5分」などと怒鳴られたことは数知れない。ただ、間に合わないなら無理は禁物というのも、また鉄則。財界というデスクがいくら騒いでも、国民が「その話はウラが取れません」という以上、強行突破は不可だ。(歩)

 

(「東京新聞」2023年8月1日)(強調は引用者による)

 

 

マイナンバーとマイナンバーカードについての2016年ごろからの疑問が少し解けました。

 

政府あるいはデジタル庁というのは、『モノ』『カネ』『情報資源』と同列で『ヒト(国民)』という価値観だったのですね。

 

だから、「裸の王様(この国の政治家)に服を着せるにはどうしたらよいか」「社会にはすでにリスクマネージメントが浸透し始めているのだから、失敗を認め踏みとどまるようにするにはどうしたらよいか」とこちらは真剣に考えていたけれど、政界や財界には「資源でしかない『ヒト』」の声はちっとも届かないはずですね。

 

経済財政諮問会議は決して経済の専門家の集まりでもないことがわかりましたし、政府にとって「骨」とはどうやら「投資」であり「投機」らしいことも見えてきました。

「ヒト」への医療や福祉もそういう対象なのだと。

 

 

ああ、すっきりしました。

 

 

 

*おまけ*

 

テレビをつけると「若返る」とか「〇〇の痛みがなくなる」といったサプリや健康食品の宣伝が急増しただけでなく、日常の食品のパッケージにも「排泄」「便通」といった文字が印刷されるシュールな世の中になりましたが、食品や飲料メーカーがそういった分野にで始めたのも2000年代ごろからでしょうか。

 

それまで「美味しい」「味が好き」で購入していたのが、そのメーカーは信頼に値するか、社長や会社の歴史といった背景まで考えるようになりました。

 

 

「ヒト」はただの資源ではなく、「モノ」を買うのにもそれぞれの想いがありますからね。

 

 

 

 

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