医療介入とは 29 <RQ.分娩時胎児心拍数の観察は?>

「胎児が生きているか、死んでいるか」しかわからなかった時代から、分娩監視装置によって「胎児が元気かどうか」わかる時代に入ったのはそう遠くない30年ほどであったことを書いてきました。


今日は、「科学的根拠に基く快適で安全な妊娠出産のためのガイドライン(改訂案)」のリサーチクエスチョン(RQ)11、「分娩時胎児心拍数の観察は?」について考えてみようと思います。


RQ11:分娩時胎児心拍数の観察は?
http://sahswww.med.osaka-u.ac.jp/~osanguid/RQ11saisyuu.pdf


そういえば、意見公募の期間は9月30日まででした。ゆっくり考えていたら、とっくに期限が過ぎてしまいました。


<RQの推奨のまとめより>


ガイドラインでは以下のように推奨されています。

RQ11-A 説明
 CTGを装着する前に、その必要性について十分に説明する。
                         【推奨の強さ  A】


RQ11-B 入院時CTG
 入院時に20分以上CTGモニターを行い、入院時の胎児の健康状態と分娩開始後のリスクを評価する。                                                       【推奨の強さ  B】



RQ11-C 分娩進行中CTG
 入院時CTGモニターで正常パターンであって、かつハイリスクでない分娩の進行中は、CTGモニターまたはドプラによる間欠的な聴診を行う。分娩第1期は次のCTG装着までの一定時間(6時間)は間欠的児心拍聴取で15〜90分毎(原則として潜伏期は30分毎、活動期は15分毎)に監視を行う。ただし、第1期を通じて連続的モニタリングを行ってもよい。
分娩第2期は連続CTGモニターが間欠的児心拍聴取で、陣痛発作による胎児心拍数の変化を観察する。                                                       【推奨の強さ  B】


RQ11-D 
 胎児心拍数の一過性変化(accelerationとdeceleration)を検出するために、間欠的児心拍聴取法では、陣痛発作中から発作終了後1分間観察する。
                         【推奨の強さ  B】


推奨の強さAは「強い科学的根拠があり、行うよう強く勧められる」、推奨の強さBは「科学的根拠があり、行うよう勧められる」という内容を示しています。


推奨内容に関しては、とても常識的な内容だと思います。
「不要に長時間CTGを装着した」といった批判もありませんでした。


ただ、今回のガイドラインの意見公募の「目的と領域」の説明の中では、「妊娠出産する母親側から見て満足と感じる妊娠出産ケアを科学的に抽出し、快適で満足できる医療・ケアの指標を見出し、母親のニーズと日本の現状を合わせてその具体的な提案をしようとしています」とあります。


ですからそういう意味では、全体のRQの中でもこの分娩時胎児心拍数の観察に関しては、「産婦の快適性」という点では他のRQと比較してもかなりトーンダウンしている印象があります。


<分娩時胎児心拍の観察に対する産婦さんの満足度>


「目的と領域」の説明の中では、「このガイドラインは平成17年度の母親対象の全国調査の結果に基いて本件旧班によって開発され、6年後の平成23年に同様の全国調査を行い、実現可能な快適で安全な妊娠出産のためのガイドラインを改訂しました」とあります。


その平成23年の調査内容と思われる記述が、RQ11の「議論・推奨への理由(安全面を含めたディスカッション)」の最後のほうに書かれています。

 今回の全国調査で多変量解析の結果、CTGの装着回数は、満足度に関し有意差が認められなかった。
有意差が出たのは、説明の有無、あるいは理解の有無であった。したがって、満足度を上げるには、装着回数より十分な説明が重要である。

<「自然なお産」と分娩監視装置>の記事で、1980年から1996年までのお産の学校でのアンケートでも不思議と分娩監視装置装着に関する項目がないことを書きました。
http://d.hatena.ne.jp/fish-b/20121002
お産の学校に参加されるぐらいの妊婦さんであれば、かなり「自分らしい出産」「主体的な出産」あるいは「満足な出産」に関する意識の強い方たちと推測します。自由に動き回れることも出産時には優先度が高いことでしょう。


あくまでも推測ですが、産婦さんはやはり赤ちゃんが元気に生まれてくることを望まない人がいないのは当然でしょうし、胎児の状態がわかる方法であれば受け入れられるのだと思います。


どちらかというと、アクティブ・バースという表現に助産師側のほうが過剰に反応してきてしまったのではないかと思えます。
分娩監視装置ではなく、ドップラーで。さらに、いやトラウベで胎児心拍を確認するのが助産師の誇りだ・・・という感じ。


<あらたな方法を提唱する時にはできるだけ客観的な検証を>


アクティブ・バースの次にでてきたのが「フリースタイル分娩」という言葉でした。
いつ頃からどのように出てきたのか、あまり記憶にありません。


でもその言葉が出る以前から、分娩台で側臥位や時には四つん這いでの出産も試みていましたが、分娩台を起こした姿勢がいきみやすくまた休息もとりやすいと感じている産婦さんが多いという印象でした。
また分娩監視装置をつけて胎児心拍を確認しているので、半座位だと心音がさがりやすいから最後まで側臥位でということもありました。


ところが、だんだんと産綱につかまったり、バランスボールを抱え込んだり、パートナーの男性にしがみついて出産するなど「フリースタイル」というと、そういう印象が強いものになってきました。


それはそれで、自由に試みてみるのはおおいによいことだと思います。


ただし、フリースタイル分娩はよいというイメージが広がれば広がるほど、私は「胎児は大丈夫だろうか」と心配になります。


特に、分娩監視装置もつけない状態で、きちんと胎児の安全性を検証できるのでしょうか?
けっこうヒヤリとした体験もフリースタイルを実施している施設ではあるのではないか?
あるいは、重大な事故まではいかないけれど、かなり胎児に負担になっていたケースもあるのではないか?


でも残念ながら、助産師でさえその具体的な事例検討や統計なども見る機会がないのです。


それは水中分娩、助産院や自宅分娩と同じです。
良いことばかり伝えられ画期的な方法のように取り上げられやすいのは、胎児の生命がかかっている出産においては、きちんと安全性が検証されていなければ本当に危険なことです。
助産師間でさえヒヤリとしたケースなどの事例についての情報を共有できるしくみがない状況では、安全性に責任を持って人に勧めることはできないはずです。


新しい方法を提唱するのであれば、まずは分娩監視装置や臍帯血血ガスのデーターで胎児の状態に危険がなかったかどうか検証することは最小限必要なことではないかと思います。


このガイドラインによって、今後あらたな分娩介助方法を提唱する際には、少なくとも分娩監視装置によるデーターが必要ということが、助産師の常識になってほしいものです。