災害時の分娩施設での対応を考える 2 <分娩という医療体制>

医療の中でも周産期医療というのは、24時間365日いつでも緊急入院があり、いつでも緊急手術や処置に備え、そして場合によっては高次病院への搬送をするためにネットワークを備えているという点が、他科にはない特色だといえます。


もちろんどの科でも緊急対応というのはありますが、災害時には反対に、新規の入院をストップして入院患者数と重症者対応を制限することが可能です。


ところが産科の場合には、分娩予約を受けた方を責任を持って受け入れなければなりません。


東日本大震災の直後にまず心配したことが、停電や通信網の混乱で産婦さんがクリニックに連絡をできなくなることと、周産期センターへの搬送のための連絡調整ができなくなることでした。


「お産が始まったら電話で連絡してもらい、来院を決定する」
日ごろは当たり前のことですが、これができないだけでも大混乱になる可能性があります。
電話を受けると入院と分娩の準備をし、他の入院中の方のケアも先にできることは実施して分娩に備えているわけですが、突然、直接来院される方が増えるとその準備ができなくなります。
もちろん、どうしたらよいか電話できない産婦さんもとても不安なことでしょう。


私の勤務先では年間300件ほどの分娩件数と、里帰りなどの理由で他院での分娩予定で妊婦健診だけ当院でという妊婦さんを合わせると年間数百人程度の妊産婦さんが受診されています。
そのくらいの規模のクリニックでも、周産期センターへの妊娠・分娩経過中の母体搬送と新生児搬送が年間十数件あります。



電話が機能しなければ、搬送先を探すための周産期搬送システムのセンターへの連絡調整ができなくなります。
また救急隊も災害対応をしている状況で、搬送のための救急隊要請も難しい状況になります。


搬送というのはいつおこるかわからない超緊急であり、判断の遅れや搬送の遅れが母児の生命に直結します。


他科のクリニックであれば震災時には閉鎖すれば済むのですが、産科クリニックは震災という非常事態に加えて、周産期センターへの搬送困難に直面します。


余震が続き、原発事故や計画停電など先行きがまったく見えないなかで、被災地の周産期医療はどのような状況なのだろうか、私の勤務先と同じような産科クリニックでは分娩や緊急対応をどうされているのだろうかということが心配でしたし知りたいことでした。


岩手県の報告より>


「産科婦人科の実際」2012年1月号(金原出版)の「特集 緊急有事における産婦人科体制づくり」の中に、「緊急有事における産婦人科救急への対応 −岩手県で行われたことー」という報告がありました。


岩手県にはこちらの記事で紹介したように、限られた医療資源を最大限活用するための「いーはとーぶ」というシステムがあります。


震災直後にこのシステムも停止せざるを得なかった状況が上記の報告には書かれていました。
少し長くなりますが、紹介します。

岩手県の周産期医療は、この10年間にわたり拠点病院への集約化とその拠点病院を核とし二次医療までは完結できる5医療圏の構築、さらに三次医療施設である総合周産期母子医療センターを原点とし、この5医療圏を統括する周産期医療ネットワークにより、限られた医療資源しかない岩手県の周産期医療を機能させてきた。特に2009年より利用開始となった新岩手県周産期医療情報ネットワーク「いーはとーぶ」は、既存のインターネットを利用したクラウド型情報共有・連携強化システムであり、震災時まで特に沿岸部医療機関の医療情報の蓄積がおこなわれていた。

しかしながら震災直後での通信手段の途絶によりネットワーク機能は一時完全に麻痺をきたし、通常円滑に行われていた緊急母体搬送のコーディネート業務も停止することになった。この通信途絶状態は停電復帰後、移動中継局が設置されるまでの間の約2日間継続した。

その間も含め、しばらくは全国より派遣された災害派遣医療チーム(DMAT)が妊婦を含めたすべての患者搬送の指示系統を握っていたため、総合周産期センターではどういうレベルの患者がどのレベルの医療施設に搬送されるのかがまったく把握できず、またこちらからコンサルテーションする機会も与えられなかった。

岩手県のように妊産婦に関する診療情報共有システムが構築され始めたところでさえ、大規模災害はその地域の周産期医療をほぼ麻痺させてしまった様子が報告されています。


その様子を、次回にもう少し続けます。



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