災い転じて福となす

昨日から、競泳Japan Open 2018が始まりました。


初日の決勝競技のリストを見て、「!」となりました。
50mバタフライ決勝に、河本耕平選手のお名前がありました。
「水を打つ」でも書いた、「大きい息の長い選手」のお一人です。
改めてWikipediaを読むと、38歳になられたのですね。
ここまで、スプリンターとして毎年、各大会の決勝にほとんど残ってこられたことは本当にすごいと思います。


いつだったか、この河本耕平選手がコールされて会場に姿を見せた時に、別の意味で「水を打つ」ような静かさになった時がありました。


細かいことは忘れてしまいましたが、刑事事件に巻き込まれそうになって被疑者か容疑者の扱いでニュースになりました。
詳細な事実を知ることもできなかったのですが、いつも会場で見る印象ではそんな人ではなさそうなのに何があったのだろうと、選手生命も絶たれそうな流れに心を疼かせながら成り行きを見守っていました。
しばらくして、確か、疑いは晴れたような内容の情報がありました。
関心を持たなければ見過ごしそうな、小さな記事だったと思います。


そして公式戦に復帰されたあの時、会場はちょっと戸惑うような空気になったのだと思います。
たとえ疑惑が晴れても、世の中に残っているわだかまりに向かわなければならないのですから、再びあの場に立つまでにどんな思いだったのだろうと、なんだか自分のことのように思いっきり大きな拍手で河本選手を称えたのでした。


なぜ自分のことのようだったか。


真面目に正直に一生懸命に生きていれば、自分は犯罪とか罪とかとは無縁だと思っていたのに、ある日どん底のようなことが起こりました。
助産師になって数年目に、目の前で胎児死亡という信じられないことに遭遇したことは、こちらの記事で封印しておきたいこととして書きました。
誰が遭遇しても助けられなかったと思いますし、当時はまだ医療訴訟は少なかったので裁判で過失を問われることもありませんでしたが、私は生きているのも惨めになるような罪を背負った気持ちになりました。
医療でも容易に刑事事件になる現在の雰囲気であれば、どうなっていたのだろう。


自分には罪とか罰とか無関係と思って生きている時には、理不尽なことに巻き込まれることも想像しにくいことでしょうし、それに巻き込まれた人の気持ちはなかなか理解できないかもしれません。


当時はおそらく惨めな気持ちに打ちひしがれたところから立ち上がったであろう河本耕平選手ですが、その姿を昨日、JapanOpen初日に見ることができたことは、いままでにも増して私は励まされたのでした。


そして帰宅したら、元自由形の日本代表だった松本弥生さんの文章が目に止まりました。

淳也さんのドーピングに関しては、禁止薬物が出てしまった事に対してはもう事実だから処分は受けなければならないけれど、わたしから見て淳也さんは水泳に対して誰よりも真面目で、もちろん自分が製薬会社に所属だとか、日本代表だとか、そのへんの自覚はあのレベルまでいくと人一倍あると思う。


2009年に世界一になったけれど、ロンドン五輪を逃して、リオ五輪も得意の背泳ぎで出られず、ラストチャンスのリレーメンバーをしにものぐるいで掴んだ彼が、意図的にドーピングをするなんて思えなくて、そもそもドーピングをしなくても、アジア大会4連覇は確実に出来たと思うし、ドーピングをする意味もない。もちろん、スポーツファーマシストがある中で、自己判断で摂取してしまった彼に非があるので処分を受けなければならないと思うけど、決して意図的ではないはずです。


暫定処分は4年。今の年齢を考えるともうアスリートとしては引退を意味する年齢かもしれません。意図的でないことが認められれば2年に短縮されるそうですが、本人のヒアリングだけではなく、第3者の意見も少しでも力になれたらいいなと思い、ちょっと書いてみました。


古賀選手に過失がなければさらに出場禁止の期間は短縮される可能性もあるようなので、もう、全力で信じて待っていますね。



<付け足し>


あとで読み返したら、ちょっとわかりにくい文章でした。
古賀選手のニュースを知ったのはJapan Openの直前で、10数年、競泳観戦のために辰巳に通い続けた中で、初めて重い足取りで辰巳へと向かいました。
そんな時に、河本耕平選手の姿を見て、何年か前の河本選手が辰巳のプールに戻ってこられた日のことを思い出してとても励まされたのでした。(2018年5月26日、追記)




古賀淳也選手について書いた内容がある記事のまとめです。

<2012年>
気持ちを切り替える
努力や思うようにいかなかった経験は必ず・・・
競泳ワールドカップ東京2018
医療介入とは 43 <「産ませてもらう」お産>
<2013年>
<競泳>第54回日本短水路選手権始まる
<2014年>
次の世代へ引き継ぐ
心の殻を破る
<2015年>
水のあれこれ 22 <一回性と再現性>
<2016年>
水のあれこれ 38 <抵抗を味方にする>
虚をつかれる
「精神的には伸び盛り」
第10回アジア水泳選手権
2016ウインザー世界短水路選手権
<2017年>
水のあれこれ 59 <発想を変える>
発達する 12 <ヒトから魚へ進化する>
数字のあれこれ 21 <競泳プールの1センチ>
数字のあれこれ 22 <百分の一秒>
水のあれこれ 66 <「息の長い選手になれ」>
水のあれこれ 70 <水の中を歩くように泳ぐ>
<2018年>
数字のあれこれ 34 <1タラントン>
境界線のあれこれ 82 <ドーピングと世の中の興奮>
運動のあれこれ 15 <「ドーピング陽性」の意味>
運動のあれこれ 16 <「正義の闘い」は誰のため?
正しさより正確性を 10 <正しさを書くのは簡単だけれど>
シュールな世界 9 <量の概念>
行間を読む 73 <「ドーピングの哲学 タブー視からの脱却」>
運動のあれこれ 22 <「『自己の超越』というブルジョワ的な価値の追求」>
正しさより正確性を 12 <「正しさ」との闘いに距離を置く>
<2019年>
事実とは何か 58 抵抗のない泳ぎの技術に効果のある薬
数字のあれこれ 49 泳ぐ速度を予測する
事実とは何か 59 「悪魔の証明」
理不尽に共に耐える
水のあれこれ 108 水が癒してくれる
<2020年>
待ちに待ったニュース
陸にあがった河童の過ごし方
記録のあれこれ 73 古賀選手のインタビュー記事
数字のあれこれ 66 「25秒04」
記録のあれこれ 79 2年4か月ぶりのレース
事実とは何か 73 インタビューから何を受け止めるのか
記録のあれこれ 87 スポーツを客観的に言語化する
<2021年>
事実とは何か 77 「コンタミを証明するのにもコストがかかるのです」
シュールな光景 22 「競技スポーツはもはや『健康』とは関係ない」
行間を読む 129 「短い時間にしっかりと集中し、神経回路をフル回転させて泳ぐ」
<2024年>
鵺(ぬえ)のような 26 正義の熱狂を車窓から思い出す