鵺(ぬえ)のような 26 正義の熱狂を車窓から思い出す

品川駅を出てすぐのS字カーブのあたりを歩きたいとずっと思っていたのは、新幹線の線路沿いの地形や地域の歴史を歩いてみたいと思う理由と、もう一つありました。

 

そのものずばり、第一三共研究開発センターのそばを歩いてみたいというものです。

夢は叶いましたが、怪しい人に思われないようにちょっとこそこそとになりました。

 

記憶があいまいになってはいるのですが、久しぶりに2018年の秋に新幹線に乗って岡山へ向かう車窓に、このビルを見つけたときに「ああここにあるのか」と思ったのでした。少し切ない思いと共に。

 

ずっと応援していた競泳の古賀選手のスポンサー企業だったからで、会場に観戦に行くと会社の応援の方々が熱いエールを送り、試合が終わるとそこに挨拶に向かう姿を何度も見ていました。

心強いだろうなと思っていたのですが、状況が変わったのが2018年のあの出来事でした。

その時には、製薬会社がスポンサーだったことは無実を証明するのには幸運だったと思って見守っていました。

 

現代の「科学的根拠に基づく医療」の大事な薬をつくっている会社ですから、当然キスをしただけで陽性になるという怪しい「量の概念」抵抗のない泳ぎに効果のある薬や成分なんて荒唐無稽だとすぐに証明してくれるのではないかと期待していました。

製薬であれば、科学的な臨床試験に基づいた考え方のはずですからね。

 

ところが、選手としての活動を規制されるだけでなく無実の証明のために莫大な費用と時間を費やすことになりました。

 

古賀選手だけでなく選手を疑い、屈辱的な検査を強いられ、そして一回の陽性反応で犯罪者のように扱われるそんな厳しい正義の熱狂的な運動の前には、科学的根拠に基づく医療の基本的な考え方では手も足もでないのかと絶望的になったのでした。

そのあとじきに未曾有の感染症に対する社会の混乱を見ると、「科学的根拠に基づく医療」というのはまだ医療に浸透し始めてわずか30年ほどなのだと痛感しましたが。

 

品川駅を出発して左に車体が傾きながら第一三共研究開発センターの横を過ぎる時には、いつも古賀選手と応援してくださっていた会社の方々の姿を思い出しながら、ちょっと切なくなります。

そして世の中の熱狂的な動きに逆らうことは難しいと、何もできなかった自分も情けなくなるのでした。

 

 

 

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