助産師の歴史 4  <2011年に出された要望書>

きょうもちょっと黒く行きます。
「記録に残しておきます」第2弾です。


平成23年7月1日付けで日本助産師会から厚労省医政局長あてに要望書が出されているようで、ネット上に公開されています。
http://www.midwife.or.jp/pdf/h23yobo/h23yobo230701_1.pdf


うひゃーな内容が羅列されていて、率直な感想は助産師会は何の権威があって、誰の為にこんな内容を主張する団体なのか」というところです。


「安心・安全な妊娠・出産環境の整備は急務であり」、冒頭から以下の内容で始まっています。

1.助産所および自宅における出産の安全性を確保する体制を整備されたい


1)医療法第19条に規定されている産科嘱託医及び嘱託医療機関が、確実に、継続的に確保されるよう支援されたい。
2)助産所が周産期医療ネットワークに包含され、システムが稼動している場合は、当該助産所の嘱託医・嘱託医療機関自動的に確保されたものとみなし、その旨の通達を自治体及び関連の医療機関に出されたい
3)地域医療の観点から、地方自治体及び地域の産科拠点病院が当該医療圏内の自宅出産及び助産所出産を後方支援する責務を強化し、義務化されたい


つまり嘱託医が見つからない助産所や現在嘱託医を義務付けられていない自宅分娩を地域で責任をもって、飛び込みの緊急搬送を受け入れる「周産期医療ネットワーク」を作れってことでしょうか。
いやはや。


要望書に「助産師必要数の算出方法の検討」という文書が添付されています。
もし地域の産科拠点病院がいつなんどき搬送されてくるかわからない助産所・自宅分娩の緊急搬送に備えるとしたら、どれくらいの医師・助産師・看護師その他スタッフが必要になるか、計算はしているのでしょうか?


自施設内の急変時の対応でさえまだまだマンパワーが足りない状況で、経過がわからない状況の母子を受け入れることがどれだけ大変なことか。
受け入れ病院への感謝もなく、「責務の強化、義務化」を要望するところがなんとも恥ずかしいですね。


次の項目も、どこをどうしたらここまで強気に要求できるのか理解不能です。

2 助産師が現行の範囲の中で行うことができる業務内容を医行為ではなく助産業務として位置づけられたい

1)正常に経過している妊娠・分娩時に必要な検査・投薬・処置は助産師が当然行うべきであり、助産に付随する業務として明文化されたい
  (中略)
2)正常分娩急変時に必要な投薬・処置について、助産に付随する業務として助産師の判断で行えるよう、今後検討の機会を設けられたい
 ・分娩産褥時期における出血時の血管確保のための輸液の処方及び投与
 ・分娩後の子宮収縮不良時の子宮収縮薬の処方及び投与
 ・会陰裂傷縫合時に使用する麻酔及びアナフィラキシーショック対応時の緊急薬品の処方及び投与

穴があったら入りたい・・・ぐらいの恥ずかしさですね。
麻酔薬の使用やアナフィラキシーショックまで対応できるようにしたいのなら、あちこちで指摘されてきたように医師になればよいと思います。


「医療介入をしない」「自然なお産」を売りにしていながら、出産の急変時には医療行為をさせろっておかしくないですか?
「産む力」「生まれる力」を引き出すための心と体づくりをして自然なお産を目指します、病院とは違いますと宣伝しているのに、結局は医療機関と同じことができるようにしたいだけではないですか?


医療機関と同じことをしたいと思っても、医師がいなくても助産師だけの判断でできると思えるその自信はどこからくるのでしょうか。
よその国の助産師は認められていると主張するのでしょうが、それはその国の政治事情で、本来は医師の教育課程を修了した人がするべきレベルの内容でも助産師がやらざるを得ないということに過ぎないと思います。


百歩譲って、もし法律が書き換えられて上記の内容が助産師の業務になったら、開業助産所は大混乱だろうと思います。
麻酔使用やアナフィラキシーショックに対応できる助産師がどれだけいることでしょうか。
そこまで助産師に要求されるのであれば開業をやめようという人も増えることでしょう。


そして業務拡大を求める次の文もすごいですね。

3)助産師がリプロダクティブ・ヘルス/ライツのケアを実施するにあたって、女性にとって必要な検査、処方について、内容を検討したうえで、医師の指示がなくても助産師の判断で行えるよう、今後の機会を設けられたい
 ・避妊指導の実施にあわせた低容量ピルの処方
 ・女性の健康相談に併せた子宮頚がん検査の検体採取


そりゃぁ外来経験があれば医師が処方箋を書いているところも見ているし、検体を採取しているところも見ているので、できないことはないですよ、見よう見まねで。
でも本当に医師のように理解してできていることではないのですよ、それは。


日本中の産婦人科医がどんどん減って、「私たちは過労死寸前だから、お願いだからがん検診の検体採取は助産師でやって」あるいは「ここまでは助産師の知識で大丈夫だからやっていいよ」となれば、法律も代わることでしょう。
静脈注射が看護業務の中の医行為として法律が代わったように。
でもあくまでも「医師の指示のもとに」ですけれど。


医師側からそんなことを頼まれてもいないし認められてもいないのに、「私たちでもできるからやらせろ」って恥ずかしいことではないでしょうか。厚顔無恥という言葉が思い浮かぶのですが。


法律が代わる可能性すらないうちから、「検体採取」や「縫合術」の講習会や演習を開始しているのはどういうことなのでしょうか。
医師の指示がないのに「更年期相談」を始めているのはどういうことなのでしょうか。
「臨時応急の手当て」を拡大解釈して、すでに助産師に許されていない医療行為が助産所で行われている事実はどこまで把握しているのでしょうか。
そんな助産師を医師側に信用しろといっても、無理だと思います。


世の中に業務拡大を要求する前に、足元からちゃんと法律を守って仕事する必要があるのではないでしょうか、助産師は。


今の助産師会などの動きを見ていると、女性学年報の木村尚子氏の論文に書かれている明治時代の産婆団体と重なりあいます。
政治力を使いながら、医療行為を認めさせ産婆の「正常な分娩」の主導権をなんとか確保しようとしていることろとがそっくりです。


それは本当に出産の安全に必要なことなのでしょうか。
安全がなければ、出産のアメニティ(快適性)も何もないはずですけれどね。
誰のための「要望書」なのでしょうか。




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