助産師と自然療法そして「お手当て」18  <マクロビと予防接種>

こちらの記事で紹介したkikulogの代替療法と予防接種に関する議論に出会うまで、私自身は予防接種を受けない理由に代替療法の考え方があることを、医療従事者でありながら不覚にも知りませんでした。


予防接種に否定的な小児科医の本とかは知っていましたが、副反応を恐れて予防接種を受けないあるいは子どもに受けさせないという医学的議論だと受け止めていました。


ところが本当に灯台下暗しで、予防接種に対して独自の理屈で否定的な考えを持つホメオパシー助産師の中に広がっていることを知り、初めて代替療法と予防接種の問題を知ったのでした。


その後マクロビを調べていくうちに、助産師の一部の中で予防接種をさせないことを勧める人が増えている背景にはホメオパシーだけではないことがわかりました。


<マクロビの予防接種の考え方>


マクロビの考え方なのか大森一慧氏個人の見解か、そのあたりはよくわかならいのですが、「自然派ママの食事と出産・育児」(サンマーク出版、2005年)に書かれている内容を紹介します。


少し長くなりますが、全文引用します。

Q. マクロビオティックの先輩ママが、「うちの子は、予防接種をしていない」と言っていました。何もしなくて、大丈夫なんでしょうか。


予防接種は、一度感染症にかかったら、免疫ができて二度はかからないという「二度なし現象」から発展したもの。病原菌を無毒化して注射すると、その病原菌に感染しても発病しないか、軽くすむことから、予防接種が行われるようになりました。
けれど、予防接種の発想のもととなった「二度なし現象」は、自然感染でできる免疫力によるもので、人工的な予防接種は不自然なものと言わざるをえません。予防接種によって引き起こされる、副反応(発熱や発疹など)や副作用(ごくまれに死亡、重度の障害)の問題もあります。
生まれたばかりの赤ちゃんは、おっぱいに備わった免疫力によって守られていますが、発育するに従って、突発性発疹や嘔吐下痢症など、乳幼児感染症の洗礼を受けます。
穀物菜食の育児をしていると、このような感染症は発病されても軽くすむか、発病しないという体験をもっているのが普通。まさに、子どもは元気そのものといわれた一昔前の自然育児です。この場合、食材は無農薬で、調味料も天然醸造のもの。化学加工品は一切排除しています。
平成6年の予防接種法の改正で、予防接種は強制的な義務接種ではなく、努力義務であることが法文上明らかになりました。予防接種に限らないことですが、赤ちゃんに対する行為に関して、他人の言葉は参考までにとどめ、お母さん自身の判断に従うべきだと私は考えます。


<大森一慧氏が出産・子育てをした時代>


昨年、日本の予防接種で大きく変わったものがありました。
それまで経口で生ワクチンだったものが、不活化ワクチンで注射になったポリオです。


半世紀以上前の私の母子手帳にはポリオの接種記録が書かれていますが、その中に経口生ワクチンと思われるものが3回、不活化ワクチンの皮下注射1回の記録があります。



「VPDを知って、子どもを守ろうの会」のポリオのページを読むとその時代背景がわかります。

日本でもかつて大流行したことがあります。その時は母親たちがマスコミとともにポリオ撲滅の大活動を行いました。
その結果、当時の厚生大臣ソ連やカナダから使用し始めたばかりのポリオの生ワクチンを緊急輸入して、テストもしないで子どもたちに投与しました。するとまたたく間に流行がおさまりました。

そう、私より少し前に生まれた方々の中には、まだ日本にポリオのワクチンがなくて小児麻痺になられたり、あとでポストポリオ症候群になって今なお病気に苦しまれている方がいらっしゃいます。


世界中の母親が恐れたポリオの流行について書かれた書籍は図書館にも何冊かあると思いますので、ぜひ読んでみてください。


大森一慧氏は、ちょうど私の母親と同じ世代ですから、このポリオの流行も記憶にあるのではないかと思います。


また私の母子手帳には、腸チフス・パラチフスの接種歴も記録されています。
昭和30年代終り頃の日本はまだまだ衛生状態が良いとはいえなかったのでしょう。


「子どもは元気そのものといわれた一昔前の自然育児」って、日本にはそんな時代はなかったと思います。


<予防接種は個人のためだけでなく流行を防ぐため>


2001(平成13)年に、麻疹の流行がありました。


当時勤務していた病院でも、妊産婦さんへの感染があり怖い思いをしました。


お一人は妊娠30週過ぎの方で麻疹に感染して切迫早産になり入院しましたが、陣痛がおきてしまいました。
児への感染に対応できる周産期センターへ、分娩になる前に母体搬送をしました。


もう一人は分娩直後に入院中に麻疹を発症。お母さんは自施設で対応しましたが、新生児への感染の可能性を考えて新生児搬送をしました。


搬送先の周産期センターでは、こうした麻疹合併の母児が入院すると院内感染対策が本当に大変だろうと思います。


穀物菜食の育児をしていると、このような感染症は発病しても軽くすむか、発病しないという体験」
それは、周囲の人が予防接種を受けていることで流行を抑えられているからといえるでしょう。


流行すれば、わが子だけでなく免疫の落ちている妊婦さんや予防接種前の乳児、あるいは予防接種を受けられない体質の方を直撃することになります。




<予防接種への不安にどう対応するか>


kikulogの「助産院とホメオパシーなど」でTakuさんに教えていただいたオーストラリア政府の予防接種の説明書(日本語訳、PDF注意、84ページあります)が、とても参考になると思います。(Takuさんのコメントは#77ですが、#34あたりから予防接種についてのコメントが始まっています)


お母さんたちが予防接種にどのような不安を持ち、どのような情報を得やすいのか理解して作られたパンフレットだと思います。
たとえば、以下のような部分です。

ホメオパシー療法による「予防接種(免疫獲得)」は可能なのでしょうか?
(p.49)

MMRワクチンが、炎症性腸疾患や自閉症を引き起こしやすいことはあるのでしょうか?(p.53)

これらは、明らかに一部の代替療法の団体などが予防接種に反対する時に使う内容を意識した説明といえます。


それ以外に、お母さんたちが不安に思う副反応とその対応についてわかりやすく書かれています。


日本の場合、お母さんに渡される予防接種の説明書はどちらかというと疾患の説明重視なので、まるで小児科の教科書でも読んでいるかのようです。医療従事者の私でさえ、読むのがちょっと大変です。


これからの予防接種の説明書は、どういう経緯で親が予防接種に不安を持つ情報を得るのかまで配慮した内容が必要になってくることでしょう。


<それでも予防接種を受けないと決めた方への対応>


オーストラリアの説明書には、免除条件について書かれています。

・・・もしくは、お子さんに予防接種を受けさせるべきではないという個人的、哲学上、宗教上、医学上の信条がある場合は、正式に意義を申し立てることができます。その場合は、予防接種の提供者に意義申し立て書の署名を求める必要があります。(p.79)

助産師は、親の中にこうした信条によって予防接種を子どもに受けさせない場合もあるという社会的問題の存在を知りながら対応をする側であって、決してそうした信条を人に勧める側になってはいけないと思います。




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