医療介入とは 107 「介入」と「恩恵」

少し前ですが、ニュースで「痛くない注射」を伝えていました。

 

今回のコロナワクチンでは注射針は細いものが使われていましたし、筋肉内注射の方法になったためか、全く痛くないものでした。

それでもあえて空気圧で薬剤を体内へと注入する方法が開発されているのはなぜだろうと思っていたら、報道によれば実際に痛くないらしいのですが、何よりも「針がないこと」で恐怖心が少なくなるためと説明されていました。

 

40年ほど前、私自身も破傷風のワクチンを打つ時にこの方法を経験したことがあります。その時にはちょっと痛かった記憶があるので、技術的にだいぶ改善されたのかもしれません。

記憶が怪しくなっているのですが、なぜ40年ほど前に「針を使わない注射」が開発されたかというと、当時ようやく注射器や注射針が使い捨て製品に少しずつ切り替わり始めた時代で、その前の時代の使い回しによる肝炎などの感染症が問題になっていました。

注射針が怖い人のためではなく、使い捨て製品はまだ高価で潤沢にはないのでその対応のための開発だったのだと思い返しています。

 

*「医療介入」という言葉はどのあたりから生まれてきたのだろう*

 

この「医療介入とは」という記事は、まとめにも書いたように1980年代〜90年代ごろから病院での出産への批判の中で使われていた「医療介入」という言葉に端を発しています。

 

自分自身が医療の中で働いてきて、私たちがしていることが「介入」という言葉で受け止められることに、ちょっと驚いたのでした。

さらに「不必要な介入」という言葉も。

 

たしかに看護計画というのは「医学モデル」を柱にしたものですから、看護をするというのは相手にとれば「介入される」ということでもあることに、遅まきながら気づかされたこともあります。

それぞれの生活があるので、自分の生活や価値観に「介入される」苦痛でしょうか。

 

ただ、私たちが「良かれと思ってしている」ことは、疾病からの回復や健康や生命を維持するために必要な医療行為であり、単に気持ちの問題から「良い」というわけでもなく、健康を守るため、あるいは療養生活の中で基本的欲求に対する援助です。

 

一旦、「不必要な医療介入」という先入観が広がったことで、その処置がなぜ必要なのかがわかりにくくなり、あるいは「ネットで効果がある」と情報を得ていたことに対して「効果はわからない」「それをした場合のリスク」を説明し理解してもらうことに途方も無い時間が費やされることが増えました。

 

どこから「医療介入」という言葉が生まれてきたのだろう。ずっと気になっていました。

 

 

*驚異的に何かが変化する時代に、見えてくることがある*

 

1960年代ごろからの施設分娩への移行というのはヒトの歴史の中でも驚異的な変化であり、1970年代頃からの自然なお産運動のような社会の葛藤が落ち着くまでには、数十年が必要なのかもしれません。

 

あるいは日本で全ての人が医療を受けられるようになったのも一世紀にも満たない驚異的な変化ですから、医療行為を「介入された」と受け止めたくなるのもわかるような気がします。

 

その驚異的な医療の変化の中でも、この10年の間に「未曾有の」という状況を2回経験しました。

東日本大震災、福島第一原子力発電所の事故と今回の新型コロナウイルス感染症です。

 

その二つを見比べると、「医療介入」といっても一枚岩ではなさそうですね。

 

10年前は、ある時点ではすでに子どもにも影響がない放射線レベルであることがわかっても、不安が不安を呼んでいくような状況が広がりました。

そして何年か経つと恐れているものに心惹かれているのだろうかという方向へと変化している人も見受けました。

 

今回はマスクやワクチンを積極的にすすめることで感染拡大を抑えられることがわかってもなお、その効果を疑い、「それを強要されること」への反発を持つ人も少なからずいるようです。そして、なぜだか「自分は大丈夫」という、10年前とは反対の方向へとその反発が向かわせているかのようです。

 

災害時のデマ(いい加減な話)はたしかに不勉強と思い込みというものが多いのですが、「医療介入されたくない」に通じる気持ちの何かがあるのかもしれませんね。

それはなんだろう。

 

あんがいと、「注射針が怖い」といった表現を見逃してはいけないのかもしれない。

虫歯も神様に祈るしかなかった時代から、わずかの自己負担で最新の治療や予防のための歯科健診を受けられるようになっても、なかなか行くまでの葛藤がありそうですね。

でも、ほんと気持ちの問題はやっかいですから、正解は見つからないかもしれませんね。

 

 

全体を正確にとらえて判断するというのは、本当に難しいですね。

現在、本当はものすごい恩恵を受けていることさえ見えなくなってしまうのですから。

 

 

 

 

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