ここ1ヶ月ほど、面会に行くたびに父の表情や言動がめっきりと乏しくなってきました。
11月初旬に風邪をひいて肺炎になりかけたのですが、話しかけてもうなずくだけで朦朧としていましたから、このままどんどんと意識がなくなってしまうのではないかと心配しました。
3日後に行った時には肺炎の危機からは脱して、いつになくしゃべるので驚きました。
「もう元気になったから大丈夫です」「もうしばらくいてください」と。
スタッフの皆さんからも、「よく食べるようになったし、すごい回復力ですね」と驚かれました。
1ヶ月ぶりに、またホールでコーヒーを一緒に飲むことができるまでに回復しました。
ところが、ストローを使えば飲めていたコーヒーですが、その容器を握ることができなくなっていました。
次の面会では、幼児用のストローが付いて取っ手のある軽いマグカップを準備していきましたが、それさえもうまく握れなくなっていました。
そして、ストローで吸うのも全身の力を使うかのように、力と加減のいる作業になってしまっていました。
2年前に2度目の脳梗塞を起こして半身麻痺になった後も、劇的な回復や変化を見せることがあるのですが、小さな体調の悪化の後にはそれまで維持して来た機能を失うことの方が多くなった印象です。
そして、生まれたときから長い年月をかけて発達してきた生活行動が、徐々に失われて、新生児の頃へと戻って行くかのようです。
話しかけてもうなずくだけで、おいしいのひと言もなくなり、険しい表情か無表情のままです。
笑顔もなくなりました。
新生児がふと笑うと周囲をとても喜ばせてくれるし、また笑ってくれないかと期待するのですが、父に対して今同じような気持ちです。
夏にも発熱した後に、「私は病気ではないから、大丈夫。みんなに心配しないように伝えてください。ちょっと休んでいるだけですから」と、いつになくたくさんしゃべってくれたのも、病気への不安の裏返しだったのではないかと思いました。
今回は「もう元気になりました」と言ったあと、「もうしばらくいてください」と父には珍しい言葉でした。
あれは、もしかすると肺炎から復活するために残った体力と気力を使い果たすことを察して、搾り出すようなひと言だったのではないかと、言葉のでない父の背中をさすっています。
機能を失っていくだけの父ですが、やはりこれも人の発達の一段階なのだと考えてみたいと思うようになりました。
「発達する」についての記事のまとめ。
2. 老年期の発達課題
3. 生活史と過度の一般化
4. 「老いる」ことをどうやって学ぶのか
5. 年をとるということ
6. 自分の代わりになる人の存在が大事
7. バトンを渡す
8. 飛び込みに挑戦するための段階
9. 出来なかった時期を思い出せない
10. 何故だろうという疑問を持つことができる
11. ただただ存在していることに意味があるところへ戻っていく
12. ヒトから魚へ進化する
13. 声を失う
14. 社会全体が発達する
15. 「発達する」の語源について
16. 社会に知識が浸透するための時間差のようなもの
17. 食品衛生への意識も似ている
18. 嗅覚の加齢に伴う変化
19. 老い支度
20. 動体視力
21. 動かずに発達する
22. 過去・現在・未来
23. 何かを確認したくなるのか
24. 環境に配慮するという意識
25. 「人類の為」
26. 自転車をやめた
27. ヒトにとっての15年
28. 「春はお花がいっぱい咲くから好き」
29. 「幼鳥は水に入らない」
30. 「偉人伝」という物語から解放される
31. 発達とか発育という表現が使われ始めたのはいつ頃か
32. 小さな工夫の積み重ね
33. 修学旅行の計画にどんな思いがあったのだろう
34. 温故知新
35. 唾液と「若者」
36. 車窓の風景を見て思うこと