1月下旬の土佐から伊予への散歩の記録が4ヶ月遅れで終わりました。
書きながら四国の美しい風景が甦ってきて、ああまた訪ねたいと思う毎日です。
そして四国へ向かうには必ず岡山を通過します。
私の遠出の原点だった岡山ですから、わずかの時間を惜しんで駅周辺も歩きます。
「今度は岡山のどこを歩こう」とわくわくしていたら、こんな記事がありました。
「やっぱり素通りですか岡山」・・・神戸・広島に劣り自虐的広告で「印象に残ること狙った」
(「読売新聞オンライン」、2025年5月13日)
13日で開幕1ヶ月となる大阪・関西万博を契機に、岡山県内へ観光客を呼び込もうと、県がPRに力を入れている。県内を訪れる観光客は、コロナ禍前の水準にまで回復し、さらなる伸長には国内の遠隔地や海外からも誘客が欠かせない。ただ、神戸や広島に知名度で劣る状況は変わっておらず課題もある。(中田敦子)
「やっぱり素通りですか岡山・・・。」
県は、こう記された新たなキャッチフレーズのポスターやデジタル広告を作製し、万博開幕を控えた1~3月、関西や九州の主要駅や空港などに掲示した。交通の結節点として利便性が高い反面、観光客が県内にとどまらない岡山の状況を自虐的に表すことで、「印象に残ることを狙った」(県観光課担当者)という。
県が昨年8月に公表した県観光客動態調査によると、2023年に県外から訪れた観光客数は推計823万人。コロナ禍で最も落ち込んだ21年の515万人から回復し、コロナ禍前の19年の998万人に迫る勢いとなった。
地方別では、中国地方(263万人)、近畿地方(241万人)、四国地方(106万人)の順で多く、遠方からの集客が課題として浮かんでいる。
万博は、半年間の会期中に延べ2820万人、1日平均15万人の来場が想定されており、開幕日には11万9000人が訪れた。さらに、4月18日に開幕した現代アートの祭典「瀬戸内国際芸術祭」も春(5月25日まで)、夏(8月1~31日)、秋(10月3~11月9日)の3会期あり、相乗効果が期待されている。
さらに万博では、想定来場者の1割強に当たる350万人がインバウンド(訪日外国人客)になると見込まれている。県は今年度予算で、万博関連経費として計約2億7800万円を計上した。
しかし、日本政策投資銀行と日本交通公社が昨年実施した訪日外国人の意向調査では、岡山の観光地認知率は11%、倉敷は4%で、神戸の30%、広島の34%に大きく遅れをとった。
訪問意向率でも、岡山は3%、倉敷は1%で、神戸、広島はいずれも11%だったことから、県観光課の担当者は「岡山は交通の利便性が高い一方で、周囲に知名度の高い観光地があり、長くとどまってもらえない現状がある」と打ち明ける。
県は8月、万博会場に、県内の魅力を発信するブースを期間限定で出展するといい、同課担当者は「万博という大きなチャンスを最大限に生かしたい」と話している。
(強調は引用者による)
なんだ、コロナ禍で激減した観光客がそのままなのかと思ったら、ほぼ復活しているではないですか。
ここまで都道府県が「観光」として何かしなければいけないのかな、これこそ民間で良い話ではないかなと、何が問題なのだろうと読めば読むほどわからない記事でしたが、とにかく万博に合わせてそれ以外の自治体でも「観光誘致政策」を盛り上げろという感じでしょうか。
「小さな政府を目指す」という流れの割には、こうした政府側の意図や力で生活や仕事が大きく変えられることを感じる昨今ですね。
人それぞれ訪ねたい場所への思いがあるのに、なんだか無理やり「観光」のイメージに浸食されていく感じ。
そしてなんでも「数値目標」がひとり歩きして金儲けの手段にされていく、嫌な時代の雰囲気です。
*岡山を何度も訪ねる理由*
たまたま倉敷に祖父母の家と田んぼがあったことから岡山の干拓に関心が出て、最近では年に1~2回は岡山を訪ねています。
2018年秋に久しぶりに新幹線で岡山まで訪ねた時、品川を出たあと一瞬たりとも車窓の風景から目が離せなくなりました。
都市部のすぐそばからまた整然とした田園風景が何度も何度も現れました。
その時に印象に残ったところを訪ねているのですが、とりわけ名古屋駅を出てすぐの木曽三川と滋賀県へ入っての田園風景、そして兵庫県の揖保川のあたり、そして「ああ、岡山に戻ってきた」と思う吉井川の田園風景は息を呑む美しさです。
そして岡山駅を出るとすぐに水路があり、桃太郎線沿いの神社や田園風景、山陽本線沿いの庭瀬の水路のある街並みや瀬戸大橋線沿いの干拓地など、どんな歴史や生活があるのでしょう。
関心が尽きなくなりました。
最近はあちこちに小洒落た「古民家風」や洗練されすぎた「和のテイスト」っぽい建物や装飾に溢れた「観光地」とは違っていて、そこで生活する人たちが創り上げてきたものこその魅力ですね。
奈良の明日香村や滋賀の五箇荘のようで、さまざまな歴史に思いを馳せながら静かに思索しながら歩くことができ、また行きたいと何度も訪ねる場所ができました。
それが私にとっての岡山です。
*「美しい日本と私」から自虐的な観光へ*
1970年代からよく耳にした「ディスカバージャパン」というフレーズが、最近、こういうことなのかと感じながら歩いています。
20代だとイメージも湧かず、なんだかよくわからなかったのですけれど。
ところが、あれも1970年の万博と終了後の旅客確保対策のキャンペーンで、日本国有鉄道と電通によるものだったと最近知りました。
ただあれから半世紀、いつの間にか個人旅行拡大キャンペーンに私も乗せられていたのかもしれませんが、最近の「観光」とは以って非なるような気がします。
最近では観光客が大挙して押しかける仕掛けを官民あげてつくり、そこに住む人の生活が乱されてもあるいは日常的に食べていた物が高騰して手が届かなくなっても、まだまだ呼び込んで儲けることが目的になっているような。
観光による混乱を治めるはずの国や自治体が、率先して環境と生活を壊そうとでもするかのような。
さらに世界では今まさに戦争が行われている地域から住民を強制的に移動させて観光地にすると大統領が発言するまでになりました。
観光は虚業だと思えてきました。
自虐的な観光キャンペーンまでして呼び込もうとする風潮はなんだろうと考え込んでいたのですが、後日、「官民ファンド、6割累積赤字 さらに3千億円膨らむ恐れ、検査院指摘」(朝日新聞、2025年5月16日)という記事から、もしかして「日本政策投資銀行」も官民ファンドかなと思って検索してみました。
DBJは、約30年にわたり航空機産業を国と共に支え続け、国内メーカーと苦楽を共にしてきた唯一の金融機関です。2017年には、宇宙産業の振興に向けて、金融市場の活性化及びリスクマネーの供給を担いながら、本邦航空・宇宙産業の中長期的発展を支援することを目的とした「航空宇宙室」を発足しました。
航空機産業を支えてきた金融機関が、なぜ今日本交通公社とともにインバウンドの調査を行なっているのか。このあたりに鍵があるのでしょうか。
観光課の方々はぜひご自身で歩いてみて、「デイスカバー岡山」を楽しんでくださると良いですね。
本当に落ち着いた街がたくさんあり、そこで静かに暮らすたくさんの方々の生活を大事にしていただければと思った次第です。
美観地区の原点や西川緑道公園の原点に戻り、そのよさを失ってしまうことのないように是非。
まあ定年になる頃でないとわからない人生の機微でしょうか。
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